イケメン従者とおぶた姫。


リュウキは考えていた。


ベス城に泊まった1日目、どうもベス王達が怪しく思え多くの人達が寝静まる夜間にリュウキは情報を集めようと城内をうろついていた。

と、いうのもベス城に入ってから隠密達の言葉飛ばし(テレパシーの様なもの)が一つも届いてこなかったからだ。
王であるリュウキには休みという休みがない。いくら休日といえど、一昼夜問わずいかなる時も関係なく何らかの情報が各地で動いている隠密達の言葉飛ばしによってリュウキに伝わってくる。
もちろん、言葉飛ばしは商工王国隠密、独自のものであって、隠密以外の者は別の手段で情報を持ってくる。

なので、毎日のように必ず何らかの情報がくる。特に、今は将来有望な若者達の大事な試験中であり毎日毎日仕切りなしに彼らの情報が入ってくる状態だ。

なのに、この城に入った途端にそれがピタリと止んだのだ。

自分が言葉飛ばしをしても応答一つない。携帯はまるで使い物にならない。
自分達(商工王国の王や幹部達)の携帯は極秘かつ独自の最新技術によって特殊にできていて水や火の中、地底や宇宙に出ても繋がる様に施されているというのにだ。

だから、外とのやり取りが遮断状態というのは絶対的におかしい事だ。

今は、ここの情報を集められるのは自分しかいない。

いつもなら絶対的に信頼できる騎士団長のハナだが、どうも様子がおかしい。
…いや、おかしいのは自分なのかもしれないが。それを確かめるべく“眠れないから散歩をしている”という設定で城内を探索している訳だが。

あの“奇妙な壁”あそこに行ってみようと思うも、何故かそこには警備隊がしきりなしにそこをうろついている。

なので、下手にそこに向かう事もできず。
一旦、城外へ出てみようと思うも何故かそこにも見張りがいて身動きが取れずいた。

毎日毎日、これの繰り返しである。

何かいいアイディアを思いつく度に実行してみるも、それらを全て見透かされる様にリュウキの目論見は片っ端から崩されていた。
少々強引な手を使えば何とかいけそうだが、ショウの事を考えるとどうしても一歩踏み出せない。

この城にショウがいるのは確かで、軟禁され人質状態。

リュウキの行動一つでショウに危害が及ぶ可能性のある今、下手な動きはできない。

そして、もう一つ大きな理由がある。

それは、自分も相手も一国の王であるという事。無関係な民を巻き込んでの戦争になりかねない。それだけは絶対に避けなければ。

だから、亀裂が入らないよう慎重に事を進めなければならない。


しかし…隠密達からの情報も遮断され外との連絡も取れない。

毎日毎日同じ事の繰り返しで、自分だけがおかしい気がしてくる。

ベス城に来て初日、リュウキ達をさっさと帰らせようとしていたベス王達だが、2日目からその気が無くなっている様だった。
彼らとのやり取りは、いつも同じ。気が狂いそうになる。それを打破しようと相手の機嫌を損なわせない様、舐められない様巧妙にやり口を変えてみても奴らは無理矢理にでも起動を修正してくる。

ショウという弱味を握られてるリュウキは強く出られずモヤモヤしていた。

いつもなら、こんなもの一気に畳み込み相手を黙らせ快勝できるのだが、人質にショウがいると思えばどうしても一歩踏み出す事ができない。

そんな攻防を繰り返し、つまるところリュウキとハナも軟禁状態になってしまったのだ。ハナは洗脳されているのか自分達が軟禁されている事に気付いていない。

そもそも、ハナにこの状態を伝えても“何の事だ?”“何を言っているんだ?”と、周りの奴らと同じ反応を示す。自分だけが違うのだ。
この空間にただ一人だけ取り残されている気持ちにさせられる。まるで、自分が異常者であるかの様だ。

この現状にさすがのリュウキも憔悴してきて、やはり自分がおかしいのか?親友であるハナさえも自分を哀れみの目で見ているとリュウキは気が狂いそうになっていた。

今の自分には味方がいない。

…どうしたらいい?

どうすれば…

と、頭を抱えていた時だった。


…ブルル、ブルル…


「…ん?私の携帯だ。」


ハナは、ズボンのポケットから携帯を取り出すと


「お!フウライからだ。ちょっと、電話に出るな。」


そうリュウキに断って電話に出た。

それには、リュウキは驚きを隠せなかった。
何故なら、自分の携帯も繋がらないしハナの携帯ももちろん繋がらない。言葉飛ばしも通じないこの状況で、フウライから電話がきたというのだ。驚かない訳がない。

…しかし、これは一体どういう事なのか?敵の罠か?それとも…そう考えているリュウキの耳にハナの豪快な話し声が聞こえた。

しかし、流石は特殊に作られた携帯なだけあって向こうからの声は一切音漏れがなかった。

しかし、ハナの話ぶりから何を話しているのかだいたいは分かる。試験生達の報告だ。それから、ハナの心配か…とリュウキは生温かい気持ちでハナの様子を見ていた。

しかし



「……ん!?今日でって、今日仕事始めたばかりだろ。どうした?お前までおかしな事を言うな?リュウキの奴もそんな事聞いてきたが。」


どんな内容なのかハナの言葉から何となく察したリュウキは驚いたと同時に、ハナも驚きの表情を浮かべ次第に深刻な顔に変わりリュウキを見てきた。

そして、悔しそうな表情に変わったかと思うとボンと顔を真っ赤にし慌てだし


「…んんっ!?いきなり、どうしたお前!!?
頭でも打ったか?アッハハ!」


と、聞き慣れない言葉でも聞かされたのだろう。どう対処していいか分からずアタフタしていた。それはまるで“初心な乙女”を見ている様だとリュウキは思った。

親友の“女の”反応や惚気なんて見たくもないし気持ち悪いだけだがハナの珍しい姿を見てリュウキは苦笑いしかなかった。

ハナをこんな風にできるのはお前しかいないと、リュウキはハナの相棒兼旦那のフウライに脱帽していた。

通話が終わり、ハナはリュウキに聞いた。



「リュウキ、この城に来て今日で何日目だ?」


と。その問いに、リュウキは目を大きく見開きそして、ニッと笑うと


「12日目だ。」


と、答えた。それを聞き、ハナは


「そうか!長い事、休憩もした事だし。そろそろ、準備運動でもしないか?」


背伸びをした後、リュウキを見ると目を細め笑った。


「…フハッ!確かに体が鈍ってしょうがない。」


リュウキとハナは、互いを見ると悪巧みした悪ガキの様にニヤッと笑った。


「この仮は、返してもらうよ。」


ハナは、まんまと相手の術中にハマった自分と相手にふつふつと屈辱的怒りが込み上げ、心の中で燃えたぎっていた。

その様子を見て、リュウキは何の根拠もないが、もう大丈夫だと確信していた。ハナにとってこの敵との相性はすこぶる悪く不利でしかないというのに。

なのに何故だか、ハナなら何とかできてしまうんじゃないかと思ってしまう自分がいる。

そして、フウライの力に驚きを隠せないでいた。フウライは、つい最近だが“史上最年少で魔導レベルS”に認定されたばかりだ。

魔導レベルSに認定された者は、世界で現在2名。その中にフウライも入った事により3名となった。
フウライは若干17歳にして魔導レベルSに到達した魔道士である。

将来、魔導レベル特Sになる可能性を大いに秘めた天才だろう。そうなれば、史上初の快挙だ。

おそらく、フウライは術を使う事によりハナと連絡を取れたのだろう。そして、こちらの状況も何となく察したに違いない。

恐るべき才能と推察力だと思う。もはや、流石という他、言葉が見つからない。

そして、大事な話ならば術を使い直接脳に話し掛けてくる筈がそうしなかったという事は、フウライの力を持ってしてもできなかったという事。
だから、フウライは自分の力と携帯の機能を合わせてこちらに連絡する事に成功したのだろう。それも、上級レベルの魔導の攻防をしながらの連絡だった事は容易に考えられる。

つまりは、この状況を作り上げている敵はフウライと同等か、それ以上の力を持っている可能性がある。

リュウキはそう考えハナは直感的にそう感じた。


しかし、残念ながら現在進行中である敵の術によってハナは徐々にこの事を忘れ、また同じ事を繰り返してしまうだろう予想も安易につく。

何故リュウキだけが正常でいられるのか、それは相手の罠か、もしくは…いや、流石にそれは…自分は土と水の2種の魔導を使う事ができるが魔導レベルB。

今は、深く考えまい。

とりあえず、今はこの崖っぷちな状況を何とか打破しなければ。

フウライのおかげで、自分がおかしいのではない事が分かった。それだけでも大きな前進だ。


「それでだ。もう、ウダウダしてるのも飽きた。リュウキ、ここは思い切りが必要だと思わないか?」


そう問いかけてくるハナに、リュウキは渋い顔をした。それを見てハナは


「娘の安否ばかり気にしていたらキリがない。ここには、私とお前しかいないんだ。欲張っちゃいけないよ。
私達が出来る最善の方法でやるしかない。私達にやれる事は限られてる。」


それでも、渋い顔をし続けるリュウキに


「こんな崖っぷちな状況を作り上げたのは他でもない、お前だ、リュウキ。もっと、部下を信用しろ。」


と、ハナは喝を入れた。
それには、リュウキもバツが悪そうにウグッと喉を詰まらせている。それをジロ目で見ると、直ぐにニッと笑い


「王として、いつも冷静沈着に物事を考え行動するお前が何も顧みず突っ走るなんて驚きしかないよ。王として失格だな!アハハ!
…だが、今回の事でお前も感情のある人間なんだなって嬉しく思ったよ。一丁前にお前も父親なんだなってさ。
ただ、覚えておいてほしいのは、お前が王としての判断をしたとしても一人の父親として衝動的に動いたとしても私はお前に着いていくって事をさ。」


ハナは意思のこもった強い目で、だが柔らかな表情でリュウキを見ていた。


お前が王として動くなら部下として着いていく。そして、リュウキ自身…一人の人間として動くなら親友として隣に立つ。
ハナは、そう言ってくれたのだ。その気持ちにリュウキは心の底から熱い気持ちが込み上げてきた。

ありがとう、ハナ。
お前は、俺の一番信頼できる部下であり、唯一心許せる親友だ。


リュウキは心から感謝した。言葉には出さないが。


「しかし、何でそんなに行動が慎重なんだ?
いつも判断の早いお前が、こんなにグダグダと拱いてるなんてさ。
ショウと言ったっけ?なんたって、お前の子供なんだ。少々強引な手段を使ったって大丈夫さ。」


ハナは自信あり気に言うが、リュウキはソファに腰掛けたまま俯くと


「…違う。」


と、ボソリと呟いた。

その呟きにハナは、ギクリとしてしまった。
まさかとは思うが、ショウはリュウキの子供じゃないとか?…まずい、何かリュウキの地雷でも踏んじまったかと笑顔をひくつかせながらリュウキを見れば


「ショウは正真正銘、俺の娘だが…勉学、運動、魔法に関して全く才能がない。」


なんて、“あり得ない”事を言ってきた。

ハナは驚きで一瞬頭が停止してしまった。
それから、リュウキがティーカップを手に取った音で意識を復活させると


「…いやいや!?なんだかんだで、お前の血を引いた子供だぞ?ただ、甘えた生活して能力を発揮できないだけなんじゃないのか?
聞けば、サクラという従者が甘えに甘やかしてショウを育てたと聞いたぞ?そのせいじゃないのか?」


あり得ないとハナは、鼻で笑いながら自分の知り得る情報でリュウキに問いかけた。


「…俺もそれは考えた。ショウの潜在能力の可能性を考え、知能、運動能力、魔法とエキスパート達を呼び鑑定させた事があった。だが、その結果はどれも惨敗。才能のさの字もないと言われた。」



リュウキからの言葉にハナは雷に打たれた気持ちになった。

…嘘だろ?性格は置いといて様々な才能の塊なコイツの子供が…。
だが、28人のコイツの血を引いた王子、姫達はみんな、容姿はさる事ながら勉強も運動も卒なくこなすぞ?しかも、みんな何かかしらの魔法も使えるエリートばかりなのに。



「魔法は仕方ない、魔法なんて魔力を持ってる者は数少ない。それを発動させる能力を持った者は更に希少なのだからな。
ただ、知能と運動能力となれば話は別だ。
ショウは、本当にオツムは弱いし運動なんて超が付くほどのド音痴だ。」



「…もしかして、お前の嫁さんの影響か?」


そうとしか考えられない。
だって、王子、姫達の母親はみんな容姿、能力など選りすぐりの者達ばかりだ。
そうなると、…リュウキの奥さんには申し訳ないが、そうとしか考えられなかった。

だが、リュウキは俯いたまま小さくフルフルと頭を横に振り


「俺の妻の知能と運動能力は分からない。出会った時には、既に命尽きようとしていた状態だったからな。ただ、分かる事は妻は“全ての魔導”の能力を持っていたし…弱っていたにも関わらず見た事もない様な“膨大な魔力”の持ち主だった。」


それを聞いてハナは、驚きで目を見開いた。


「…何をバカな事を言っているんだ。全ての魔導の能力を持っているのは、この世でただ一人“精霊王”だけだろ?」


「…………」


「精霊王は、10年以上前から全国王、幹部達を集め何かある度に会議を開いているだろ?」


「……その精霊王が“偽物”だとしたら?」


リュウキの言葉にハナはゴクリと唾を飲み込んだ。嫌な予感が胸をよぎる。


「…そもそも、あの精霊王は最初からおかしいと思っていた。
“世界の秩序を守る宝”って何だと思う?それ無しでは何もできないという事じゃないか?
そもそも、精霊王というのは“存在するだけで世界の秩序を守れる”んじゃなかったか?
それとも、その宝は“精霊王にしか扱えない何か”なのか?それすら、あやふやだ。」


リュウキの疑問にハナもハッとする。全知全能な精霊王なら、盗まれた宝を見つける事も簡単なのではないのか。どうして、宝を見つけられないまま十年以上の月日が流れる。

首脳会談の時も、術を使い幻影を映し出した状態(映像の様なもの)で各国王、幹部達の前に現れ実際に姿を現した事はない。



「…俺の妻が精霊王だとしたら?」


「……!!!?」


「そう考えれば色々と辻褄が合う。俺の妻、アクアが精霊王のいう“宝”だとしたら?あの精霊王が“偽物”だとしたら?」


それから、リュウキは今まで話した事のなかった妻のアクアとの出会いから亡くなるまでをハナに打ち明けた。

その内容に、ハナの筋肉脳はキャパオーバーしたが野生的感と察しの良さで何とか理解に追いついた。


「…なるほどねぇ。なら、なおさらだ。
ショウは魔法に長けててもおかしくない筈だが?」


向かいのソファにドカリと巨体を沈ませハナは、ショウの才能の可能性について言及した。


「いや、本当にショウには魔力すら存在しない至って平凡な人間だ。」


「まあ、両親がエリートだからといって子供がエリートとは限らないからな。」


ハナは、あははと豪快に笑った。
まさか、リュウキの子供にこんな不出来な子ができるとは。
優秀、有能、カリスマ性を持って生まれたエリート。挫折なんて知らない女に困らない恵まれ過ぎた環境で生きてきたリュウキ。
リュウキの周りにいるヤツらも選ばれた優等生か何らかの素晴らしい才能を持つ者ばかり。
だからこそ、リュウキにとってショウは未知なる生物、唯一リュウキに手を焼かせ振り回せる存在なのだろう。

そう思ったら、もう愉快でしかなかった。

ハナの中で、リュウキは一部人間性に欠けるものの(主に女性関係など)そこを取り除けば完璧な王だ。

その絶対的王が、誰よりも劣る能力の人間に振り回されているだなんて誰が想像できようか。ハナにとって、これは面白い他ない。あのリュウキがと。


もう、それがツボにハマってハナは腹が捩れるほどヒーヒー笑いが止まらなかった。


「…おかしいか?あんなのでも、俺にとっちゃかけがえの無い可愛い娘なんだがな。」


リュウキは、ハナの考えている事が手にとる様に分かりムスッとし、チラッとハナを見ると頬杖をし困ったように笑って見せた。


「…いや、羨ましいと思ってな。ほら、私は子供のできない体だろ?子供が居たら…そう考える事はあるよ。」


リュウキは複雑な面持ちでハナの話を聞いていた。リュウキだって、ショウが生まれるまで自分の子供を愛せるなんて微塵も思ってもなかった。

だが、実際愛する者との間に望んだ子供が生まれてみると、バカだし、アホだし、ブサイクだし超デブで…以下略の欠点だらけな娘なのに、おかしい事にそれすら愛おしく思えてしまうのだ。可愛くて可愛くて仕方ない。そして、驚く事に無限に湧き出てくる父性が止まらない。

とてもとても不出来な子供で自分が娘を馬鹿にするのはいいが、何故だか他人に娘を馬鹿にされると腹が立ってしょうがないのは何故だろうか?事実なのに。
その事にたまにおかしい話だと自分で自分を笑ってしまう事がある。

育てる上で日々、色々と葛藤はあるしイラつくしムカつくし悩みも尽きないものの、それすら後になって思い返せば、恥ずかしさや怒り悲しさなど様々な感情も呼び起こされるが何だかんだいっても愛おしい大切な思い出だ。

この先ずっと、それすら経験できないハナにリュウキはなんとも言えない気持ちになる。

そして、感情に欠落のある自分にこんな気持ちを与えてくれたアクアには感謝しかない。



「けど、子供ができない体で良かったとも思うよ。子供が居たら、この仕事を続ける事はできなかっただろうし。

フウライの事も考えるんだ。
私とフウライじゃ寿命も老い方も全然違う。
私は一般的な老い方をするし寿命だってそうだ。

だけど、フウライの寿命は私とは桁違いに長いし、老いるスピードも恐ろしいくらいに遅いだろうよ。ただでさえ、年齢差があるんだ。…私だって負い目は感じるさ。

だからさ。もし、私達に子供なんてできたら、私が死んでから後々面倒になると思うんだ。

私の次に現れるフウライの恋人もしくは嫁さんにも申し訳ないしさ。」


なんて、何でもないかのように笑いながら話すハナだが、心の中は大嵐で張り裂けそうになっている事だろう。

何とかしてやりたいが、こればかりはリュウキには何にもできない。下手な言葉はハナを傷付けるだけだ。

辛いに違いない、こんな葛藤と苦しみを誰にも相談せず今までずっと一人で抱え込んでいたのだ。

だが、親友であるリュウキが胸の内を明かす事により、つい絆され自分の抱え込んでいるものを吐き出してしまったのだろう。

話し終え、少々時間が経つにつれハナは徐々に冷静さを取り戻し(こんな事、誰にも話すつもりはなかったのにと)内心ずぅ〜んと沈んだ気持ちになった。が、それを悟られない様にに表向きはアハハ!と、笑って誤魔化していた。

そんな、親友の心の内などお見通しなリュウキは先程の話は聞かなかった事にし話題を逸らした。


「…自分が過保護だって自覚はある。
だが、ショウには少しも傷をつけたくない。怖い思いをさせたくない。そう考えると、どうしても一歩前に踏み出す事に戸惑いがでる。
もし、自分の判断ミスで何かあればと臆病になってしまう。…こんな事、初めてだ。
…怖くて怖くて仕方ない…」


ハナの弱音を聞いたせいだろうか?
リュウキも知らずのうちに自分の不安や葛藤をハナに打ち明けた。

震えながら自分の頭を抱え込むリュウキの姿をハナは初めて見た。

どんな戦場でも、困難や逆境に立たされようと決して弱音など吐かなかった不撓不屈のこの男が。
末恐ろしい地獄の様な出来事に遭遇しても顔色一つ変えず冷静な判断をし、誰もが諦める中王自らが先陣を切って戦う怖いもの知らずで勇敢なこの男が。

恐怖と不安で震えている。動けずいる。

たった一人、自分の子供の為に。


ハナは酷くショックは受けたもののホッとした気持ちにもなった。


「気持ちは分かった。だが、ショウの側にはアイツらがいるだろ?期待の新米用心棒と強いメイドさんがさ。その辺、信じても大丈夫なんじゃないか?
ここに長居する方が相手の思うツボになりかねない。ウダウダしたって始まらないよ。
ショウを助けるんだろ?しっかりしな!
お前は、ショウの父親だろうが!!ショウに情けない姿見せたいのかい!?」


ハナが檄を飛ばすとハッとリュウキは顔を上げ


「…確かに、こんな姿はショウに見せられないな。ショウに会った時、揶揄うこともできなくなる。」


リュウキは、いつもの皮肉った口調に戻り毅然の眼でハナを見てきた。


「お前が居てくれて良かった。」


そう言葉をかけると、颯爽と部屋を出るのだった。






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