イケメン従者とおぶた姫。
フウライとムーサディーテ女王シラユキ
ショウ達が得体の知れない“何か”と対峙していた、その頃。


フウライは、ムーサディーテ国女王である叔母の家を訪ねていた。叔母に会うのは、実家を出て以来…実に五年ぶりである。

フウライの叔母は城には住んでいない。叔母にとって城はあくまで“職場”だそうで住む気にもなれないそうだ。
叔母の家は、城から結構離れた場所の小さな田舎町にある。

家も一般市民の極々普通のありふれた家だ。まさか、この家に一国の女王が住んでいるとは誰も夢にも思うまい。

有り余る程の財力と権力、地位を持ちながら、好き好んでこんな質素な暮らしをしたがるのは叔母と自分の嫁くらいだなと叔母の家を目の前にフウライは失笑していた。

嫁であるハナと結婚し家に住む際、フウライとハナはなかり揉めたもんだ。
超大豪邸を作り大都会に住みたいフウライと、片田舎でのんびり普通の家で気ままに暮らしたいというハナの意見で真っ二つに割れ大変だったのを思い出す。もう、めちゃくちゃに喧嘩した。

…結果、二人の意見の間をとって

大都会に近い都会のタワーマンションの最上階に住む事で決着がついた。
ハナはもの凄く不服申し立てていたが、王族生まれ王族育ちで蝶よ花よと育てられたフウライはこれでも物凄く妥協した方なのだ。
これ以上は妥協できないとフウライはブーブー言うハナに無理矢理押し通した形ではあるが。

もちろん、フウライだってお金が無いのであれば、それに見合った生活はする。
何より、フウライはハナと一緒だったら貧乏だっていいと考えている。その覚悟で親の反対を押し切り勘当同然で家を飛び出し今に至るのだから。

ただ、自分の財力に見合った生活はしたいと考えているだけだ。血の滲むような努力と不屈の精神で這い上がりここまで上り詰めてきた結果のこれだ。文句は言わせない。

別にハナの感覚を否定するつもりはないし、気持ちを尊重したいとは考えているが…。

腐るほどお金を持っているのに、ハナは一般市民よりずっとずっとお金を使ってないと断言できる。
その理由は、お金の使い道が分からないからと自分が生活できる最小限の生活費を手元に残し、残りの全ての給料を貧困で困ってる施設や家庭に寄付している。挙げ句、貯金もゼロ。

そんなハナの金銭感覚はどうも理解しがたい。

もちろん、ハナの計画性も何もあったもんじゃない金銭感覚を危惧し、結婚してからはハナのお金の管理もフウライがしている。
いくら、高給取りだといっても貯金ゼロというのは考えものだと思う。

しかしハナの希望で、二人で考え決めた金額は毎月、貧困、医療など携わる団体に寄付はしているし、これに関しては考える所もあり自分も寄付するようになった。

趣味から価値観まで色々と違い過ぎて、しょっ中喧嘩ばかりしている二人。
…と、言うよりハナのプライベートのあまりのだらし無さに、フウライがキレて一方的にガミガミ怒って叱って説教しているだけなのだが。ハナはそれを笑いながら聞き流すか我慢できないと何処かに逃げて行く。…と、いう上手くいってるんだかいってないんだか分からない夫婦生活であるが。

しかし、そんな二人ではあるが根本的な根っこにあるモノ、それだけはお互いそっくりで価値観もパズルのピースが埋まる様にピタリと隙間無くハマっているとフウライは感じている。

それに、生活能力ゼロでだらしないハナには、自分がついてやらないと…ヤレヤレ…と、呆れながらもアレやこれと面倒をみているが、これはこれで幸せだなとフウライは充実した夫婦生活を送っている。

でなきゃ、こんなにも違う二人がずっと一緒に居ない。


そんな事を考えながらフウライは叔母と簡単な挨拶を交わすと、叔母に招かれるまま狭いリビングの質素なソファに座った。

出された安物の茶は雑味が多くあまり美味しくないなと思いながらも口をつけた。
自分の職業柄とハナとの付き合いなどでこういう安物も口にできるようになったし今ではだいぶ慣れた。

ハナを追いかけて王族である実家を飛び出し、韜晦し商工王国の兵に入隊した時。
最初の頃、安物の食べ物や飲み物は、何だか人の食べる様な物に思えなくて拒否反応が出てなかなか口に運ぶ事はできなかったし飲み込むのもやっとだった。
安物の食器類に口をつける事すら野蛮に思えてしまっていた。何だか、汚い物の様に感じて…。
フウライにとって、この貧困な生活は色々と大変でとても苦労したし逃げだしたい気持ちばかりだった事を思い出す。

それを乗り越え今に至る事ができたのは、単にフウライのハナへの一途な思いのみである。それを糧にここまで頑張ってこれた。

慣れるまで時間も掛かったし本当に苦労したと当時の事を思い出し、安物の茶を普通に飲んでいる自分に少しばかり笑えた。
だが、それも悪くないと思うフウライだ。

…しかし、見渡す限り、どれをとっても普通の一般家庭そのものだ。女王がこんな暮らしをしているのが驚きだし


「…叔母様は、旦那さんには“まだ、ご自分がこの国の女王だという事を打ち明けていない”のですか?」


と、手作りクッキーをテーブルに運んで来た叔母に尋ねた。

料理もすれば掃除、洗濯、客人にお茶まで出す女王なんて聞いた事もない。それを当たり前の様にこなす叔母にフウライは驚きを隠せずいる。

自分が生まれるずっと昔の話だが。
叔母は旦那と出会う前までは料理も家事も一切しなかったし、何なら傲慢で我が儘、自己中、冷酷と、人として最低の具類に入る人間だったとよく母親から聞かされていた。

そんな女王だったが、旦那と出会い恋をして別人かと思うほど人間が変わったという。

今では、こんなに素晴らしい女性はいないという程、理想的かつ魅力的な女性だ。

恋とは偉大だなぁと思うフウライだ。

ハナとの結婚もこの叔母なくしてはできなかったと断言できる。叔母には感謝しかない。


「…それ、聞いちゃう?私も悩んでるのよね。
身分を隠したままウダツさんと結婚しちゃって…。直ぐにでも話さなきゃって思ってるんだけど、どうしても勇気が出なくって。」


叔母のシラユキは、フウライの斜め横にある椅子がわりの大きなクッションに身を沈めると色っぽい溜め息をついた。

シラユキは、ムーサディーテ国特有の王位継承を受け継ぎ女王になっただけあり、国の誰もが認める程、知力、武術・魔導、カリスマ性、美貌を兼ね備えたパーフェクト人間である。
彼女が女王になったおかげで、シラユキの親族(親、兄弟、甥、姪まで)は王族という地位にいられる。

しかも、美貌に関してもムーサディーテ国、三大美の一人というえげつない程の美しさを誇っている。

肌は雪のように白く陶器のようにきめ細やか。髪は黒く艶やかな流れる様なサラサラのストレート。目は、妖艶さと高潔さを秘めた美しい黒曜石のよう。口は少し小さめで、ちょっぴりぷっくりとした唇はとても可愛らしくも色っぽい。

少々釣り上がった柳眉とどこか猫の目を思わせる様な大きな目と少し重い二重瞼のせいだろうか。まるで小悪魔を思わせるような可愛いと色っぽさが混じった感じだ。

それでいて女王として凛とした佇まいは、高潔であり何者も近付けない気高さ・神々しさを感じる。

手足はスラリと長く、小顔で首が長い。
首や腰のラインがハッキリしていてとても美しい。非の打ち所がない抜群のスタイルの良さだ。
185㎝ある長身はそのスタイルの良さをより一層引き立てている。



「…叔母様が女王だと知って、人が変わってしまう可能性もありますからね。」

と、フウライが苦々しく笑うと

「それは絶対ないわ!」

シラユキは声を荒げ、それをキッパリハッキリ否定した。そんな彼女に驚きつつ

「…なら、サクッと言ってしまえばいいのでは?」

なんて、さほど興味のない話を早く終わらせたくて適当に言葉を返した。自分はこんなたわいもない話をしにここを訪ねてきた訳ではないのだ。

「…それが出来たら苦労はしてないわ。」

シラユキは、安いお茶を飲みながらプクッと頬を膨らませフウライを恨みがましく見た。
彼女が持つと安物のティーカップさえ高級品に見えてしまうから不思議だ。

「そういえば、叔父様は?」

日曜日なのに、家の中に姿が見えない叔父が気になり聞いてみた。正直、これから出す話は女王である叔母以外聞かれたくない内容だ。

「今の時期、工場が繁忙期に入ってて…。今日は休日出勤でいないわ。」

シラユキは、それはそれは残念そうにガックリと肩を落としている。とても寂しそうだ。
そして、大事な旦那様の体をとても心配している。休日出勤だなんて…体を壊しちゃうわと。

だが、フウライにとって今日だけは叔父の不在は有り難かった。

「…叔母様。実は、叔母様の力を貸してほしくてここまで来ました。」

事前にアポイントメントは取り付けていたフウライだ。
内々で話したい事があるので、できれば二人で話がしたいと連絡をしていた。
ならばとシラユキは、甥であるフウライの考えを汲み取り城ではなく自宅へと招いたのだった。


「この国には“醜女と絶美の宝石の伝説”がありますが、ベス帝国にも“醜女と絶美の宝石の伝説”があるという事をご存知ですか?」

「ええ、知っているわ。」


やはり、と、フウライは思った。

自分の考えが正しければ、何個か存在するこの物語の“真の話”と、何故、ベス王にショウ達が軟禁されているのかという謎をムーサディーテ国女王である叔母ならば知っている可能性があるとにらんでいた。


「では、我が国の姫がベス帝王に軟禁されている事もご存知でしょうか?」

と、いう質問に、シラユキはピクリと反応を示すと顔を強張らせた。


「今までもベス帝国では、カジノで大勝ちした者が数日間だけ行方不明になるという怪奇現象があるとか。
ですが、早ければ次の日、遅くても数日間だけとすぐに見つかり何の外傷もなく無事に見つかっているという報告があります。

…ですが、今回はショウ姫とその従者2名が行方を眩ませて、既に2週間になろうとしています。
しかも、ショウ姫と行動を共にしていたその他の者達は行方不明になった次の日に発見されました。

この様なケースは初めての事でーーー」


と、フウライは自分の知り得る限りの経緯と情報を話した。


「ここに来る少し前の事です。一瞬全身がすくみ上がる程の恐怖…まるでこの世の全てを破壊されるかの様な…気や魔力の乱れ、空間の歪みを感じ胸騒ぎがしました。
それを感じたのはベス帝国。嫌な予感しかなく騎士団長に連絡を試みました。が、一切通じる事はありませんでした。
…そして、今現在我が王と騎士団長の気配を全く感じられません。」


そこまで話すと、それが現実味を帯び急にフウライの体がガタガタと震え出した。
この話をする前までは、まだ現実味がなくどこか遠い話の様に感じていた。…一種の現実逃避の様なものであろう。


「…そう。ついに、来たのね。」


フウライの話を聞き、シラユキは意を決した様な表情をし


「今から話す事は、ムーサディーテ王位継承者にしか伝えられない話よ。本来なら口外してはならない事。
けれど、今回はそうは言ってられない緊急事態。醜女と絶美の宝石について私の知っている事を全て話すわ。」


と、言うと
すぐさま、フウライを心配し


「…アラガナ、落ち着いて?大丈夫よ。
もし、“そうなのだとしたら”商工王の娘さんがいる限りみんな無事な筈だから。」


そう言って、シラユキは震えるフウライの背中をさすった。フウライは震えながら、何故そうだと分かるのかとシラユキを見た。


「…絶美の宝石は、この宇宙そのものだと言っても過言ではない強大かつ偉大な存在だと聞いたわ。
“この”宇宙最強にして宇宙一の美貌を持つ“何か”なのだと。
そして、絶美の宝石は決して解放してはならない禁断の何か。何故なら、絶美の宝石のあまりの美しさに人々は心を奪われ狂い世界は地獄絵図と化してしまうから。

ここからが、きっと、重要な事だと思うわ。

【絶美の宝石の名前は“ダリア”。“天を護る天守(テンシュ)の一つ“天の剣”である。】

あまりに完璧過ぎるダリアは、出来損ないの天を毛嫌いし捨てた。
捨てたが、宿命がダリアを邪魔する。ダリアは、それに抗い続けるが逃れる事はできない。今もそれに苦しみ悩みもがき続けている。


そう、言い伝えられているの。

それを伝えたのは、初代ムーサディーテ国王。
そして、ムーサディーテ国王はこの世界の人間ではなく不老不死で今もどこかで生きている。

それはそれは美しい美貌の持ち主で、“ダリアが一番気に入っている愛人”。

ダリアは“お気に入りの彼”に“自分の体”が封印された宝石を託した。

初代ムーサディーテ国王は幻術使いの始祖と言われている。彼は愛するダリアを守る為、ある場所にダリアの体を封じた宝石を隠した。


と、これが王位継承者に伝えられる話よ。」


シラユキから聞いた話は、ぶっちゃけ
何なんだ、それは。意味が分からない。が、フウライの正直な感想だった。

それが、ハナ達を助けるヒントになるとでも言うのかとそんな気持ちであった。

そんな焦りだらけのフウライに、シラユキは


「焦らず、落ち着いて考えてみて。
まず、ここで考えられる事の一つとして。
“この宇宙”と言われているからには、宇宙はいくつも存在すると考えられるわ。

そして私達のいる宇宙最強にして宇宙一の美貌を持つ人物が絶美の宝石と呼ばれる“ダリア”。
おそらく“天”というのは私からすれば神様的存在なのかもしれない。

それを護る役目にいたのがダリア。
“天の剣”…剣は攻。そう感じると、天を守る為に戦う存在なのだと私は考えるわ。

けれど、有能なダリアは自分が仕える天が無能で愛想を尽かし捨てた。
だけど“天を守る宿命”にあるダリアは、どうしても天を忘れる事ができない。

そんな風に、私は感じとったわ。

けれど、何故ダリアは自分を封じたのか…或いは封じられたのかは分からない。何の目的があるのかも分からない。

ただ、分かる事は初代ムーサディーテ国王も私達からすれば神様に近い存在。
私達では考えられない絶大な力を持つ存在が集まっている世界が存在し、そこに初代ムーサディーテ国王もいたという事。

そこで、ダリアと知り合い“愛人の一人”となった。

そして、何らかの問題が起きダリアは危機的状況に陥り何かの事情でダリアは宝石に封じられた。それを救う為、守る為にダリアが封印された宝石を持って私達のいるこの世界に逃げてきたって考える事ができる。

…ねえ、おかしいと思わない?」


と、話すシラユキにフウライは首を傾げる。


「どうして、ダリアを封じる必要があったの?
何故、それを持って初代ムーサディーテ国王は私達のいる別世界へ逃げる必要があったの?

何故、初代はムーサディーテ国を築き上げようと思ったの?

何故、醜女と絶美の宝石の伝説が二つの国に伝えられてるの?

別の世界に逃げるくらいなんだから、普通に考えたら身を隠しながら生活しそうなものじゃない?
国を作り王となれば、大いに目立つし自分はここに居るとアピールしている様なものに思えるわ。

それに、不老不死な筈なのに自分は王を引退している。しかも、自分の秘密を後継者に言い残して。

…そして、隣国のベス帝王。
ダリアの封印の解き方を知っていて復活を試みようとしている気がする。
その鍵となるのが“醜女”。推測するに醜女と呼ばれる女性は“ダリアの天”。

その能力として“目利き”“財力”とどこに行っても彼女は富をもたらすと言われている。

それを見つけ出す方法として“カジノの国”を作ったって考えてもおかしくない。

だから、カジノで大勝ちした者を誘拐し醜女かどうか見極める。そして、伝説ある醜女ではないと判断されると何事もなかったかの様に元の場所に帰すという事を繰り返している可能性が高いわ。

そんな途方も無い方法でしか、醜女を探し出す手段が見つからなかったのかもしれない。

そして、今。ようやく、その伝説にある醜女と思われる人物が見つかった。

それが、商工王国のお姫様だったって訳ね。

そこは、少し納得出来る部分があるわ。
だって、彼女のいる商工王国は世界一裕福で平和な国だから。」


そこまで言われて、フウライはハッとした。


「…まさか、ベス帝王は…」


「…その、まさかだと思うわ。
だって、ベス帝国は初代ムーサディーテ国王が引退して間もなくできた国だから。
そして、今まさに最悪の事態になっている可能性がある。それに対抗できるのは…おそらく、“精霊王”のみ。」


「…精霊王…」


シラユキの話を聞いていて絶望的だと思った。

…宇宙最強だと?神的存在??
もし、その仮定が正しければ自分はソレにどうやって対抗できるのだろうか。

そもそも、精霊王といっても“宝”が行方不明で力を使えないと言われているではないか。

それに、一刻も早くハナの所に駆けつけたいが魔道を使いベス帝国城や周辺の様子を見たが何ら変わりなく国が回っている。

…そこも、どうもおかしいと思う。

だって、あの強烈な悪寒、そして嫌な予感を感じハナと王の気配が一瞬にして消えたあの瞬間から、ハナ達と一緒にいたと思わしき“ベス帝王”の気配まで消えているのだ。

自分がベス帝国城の探りを入れた時、大いに妨害してきた魔導から感じ取る魔力の気配。それは、紛れもなくハナ達と一緒にいるベス帝王。
嫌というほど邪魔をしてきていた魔導だ。間違う筈がない。

それが消えた瞬間から、難なくベス帝国城の中も見る事ができる様になった。

しかも、普通にそこには“ベス帝王”がいる。
だが、そのベス帝王と自分の知っているベス帝王の魔力は全然別人のもの。

フウライには、ベス帝王という存在が二人いる様にしか思えなかった。

まるで、狐に騙された気持ちだ。


だが、フウライは考えた。

今までの話をまとめると、おそらく、そうなのだろうと。

思いつく限り、力の尽くせる限り、あらゆる魔導を駆使して全力を尽くしたが、ハナ達の気配を感じとる事もできなく駆けつける事も不可能。

ならばと藁をも掴む思いで、何か手掛かりが掴めるのではないかと叔母に助けを求めた。

…結果がこれだ。


と、絶望に満ちた気持ちでいると


「希望は捨てちゃ駄目よ。こういう時こそ、前を向かなきゃ。」


シラユキは、フウライを叱咤した。
…が、いくら励まし声を掛けても、絶望に満ち俯き動かなくなってしまった甥っ子にシラユキは


「いいの?遠回りでも何でも、チリの様に小さな小さな小さな何でもない情報だろうがたくさん掻き集めれば大きなヒントが得られるわ。
それすら、行動も起こさないで何ができるの?
ただただ、何もしないで泣き寝入りするの?
ハナちゃんを助けたいんでしょ!?
しっかりしなさい!あなたはハナちゃんの旦那さんでしょ!!」


と、鼓舞した。

すると、ハッとしたようにフウライは顔を上げるとすぐさまシラユキの方を向き床に膝をつけると頭を下げた。

「お願いします。自分だけでは、我が王も騎士団長も助ける事はできません。
女王陛下のお力をお借りしたく存じます。」

「可愛い甥っ子のピンチだもの。私に出来る範囲ではあるけど協力するわ。」

と、快く快諾してくれた叔母にフウライは、また助けられてしまったと思った。
聖騎士副団長という団員達をまとめる立場になって一人前になったつもりでいた。一人で何でもできると思っていた。
だが、今思えばいつも隣にハナがいた。いつもハナが正しい方向に自分達を導いてくれていたおかげだと今更ながら感じる。

一人行動してみれば、ハナや叔母に比べ自分はまだまだ未熟のヒヨッコだと思い知らされる。

…今の自分はとても情け無い。

こんなカッコ悪い姿は絶対にハナに知られたくないと恥ずかしくなった。


「私に出来る事。まずは、ベス帝王に会いに行きましょう。私から連絡すれば何事もなければ直接会って話す事ができる筈よ。」


今までも幾度なく考えていた事がある。
自分はハナを守る騎士になりたいと、ハナの所属する部隊を希望し入隊した。
そこで目にする命と隣合わせの仕事。いつ、命を落としてもおかしくないし、怪我もつきもの。大怪我だって日常茶飯事だ。

だが、今回それを上回る事態に巻き込まれている。

フウライは思った。

…ダメだ、自分の精神が持たない。
もう嫌だ、我慢の限界だ。こんなにヒヤヒヤ、ハラハラさせられるのは勘弁してほしい。生きた心地がしない。

今回限りでハナには一線を退いてもらおう。
危険のついて回るこの仕事を辞めて、安心できる穏やかな生活を送ってほしいと考えた。

ハナが何と言おうと絶対に仕事を辞めてもらうと心に決めた。

まさか、フウライがこんな事を考えているとは思いもよらないシラユキは


「これは、もはや商工王国やベス帝国だけの問題ではないわ。絶美の宝石が関わっている以上、私の国が動かない訳にはいかない。
全面的に協力するわ…いえ、むしろ、こちらが協力願いたいわ。お願いできるかしら?」


と、この事件について全面的に協力する事を伝えた。

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