直球すぎです、成瀬くん


お互い食べ終えた私たちは、成瀬くんの一声で帰ることに。

少し時間も経っていたからその分気温も下がっていた。外に出た瞬間に吹いた風に、思わずくしゃみが出てしまった。


……あ…マフラー、お母さん、朝に用意してくれてたのに、家に忘れてきてた………


「おまえ、上着とかねーの?」

「…わ、忘れました…」

「本当アホだなおまえ」

「えっ…」


言いながら、近づいてきた成瀬くんに思わず目をギュッとつぶる。

とほぼ同時に、首元にふわふわとした感触を覚えて、恐る恐る目を開けた。


「しょうがねーから貸してやる」


首には、黒いマフラーが巻かれてあった。

……こ、これ、もしかして成瀬くんの………?


「っだ、大丈夫です、成瀬くん風邪引いちゃいます」

「うるせぇ黙っとけ」


いつもの口調でそう言うと、足早に前を歩いていってしまう。

慌てて追いかけ、その少し後ろを歩いていると、ぼそりと成瀬くんがこぼした。


「おまえの行きたいところ、やっと言えたな」

「……あ、はい…」

「あと何個出てくっかな、おまえがしょーもねぇこと考えたせいで呑み込んだもの」

「…っな……、そ、そんな、たいしたことないので、大丈夫です…」


ほんとかよ、と軽く笑うと、少し振り返って私を見た。


「でもまー、そんな感じでいーんじゃねぇの。少なくともさっきのおまえは、いつものピエロみてーなくそつまんねーやつではなかったし」


ピ、ピエロ……って…………


今までの私が、成瀬くんには一体どんな風に見えていたのかと頭を抱えそうになる。


「…じゃあな、風邪引くなよ」


そんな私をよそに、成瀬くんはそのまま角を曲がっていなくなってしまった。



………でも、そうかも……さっきのは、相手がどう思うかとか、ずっと考えてるような時間じゃなかった……


……こんな感じなんだ……


物心ついた頃から染みついていた癖で、今まで感じることのなかった感覚を知れたことが、何だか嬉しかった。


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