直球すぎです、成瀬くん
突然誰かの声がして、私の肩はビクリと上がった。
「…あ……」
「こんにちは」
声がした方にそろりと視線を向けると、そこには、背の高い短髪の男子。そして、どこかで見覚えのある顔。
柔らかく微笑んだその顔を見て、私は一気に思い出した。
…夏休みに、自称大学生たちから助けてくれた、あの時の人だーーー
うちの学校の制服を着ている……ということは、同じ学校の人だったんだ………!
「…あれ、ナニ朝井の知り合い?」
その後ろからさらに声がして、数人の男子がひょいと顔を覗かせた。
……この人たち、あの時一緒にいた………!
そっと足元を確認する。
学校指定シューズの色は……緑だ。
うちの学校では上履きが学校指定のものと決まっていて、ラインの色が学年ごとで違う。
私たち1年生は赤、2年生は緑、3年生は青。
緑…ということは、2年生…先輩だ。
「あ、うん、ちょっと知り合い」
「ちょっと知り合いって何だよっ」
軽く肩にパンチを食らった先輩は、何すんだよ、とその箇所をそっとさすった。
「…こ、こんにちは…」
「夏休みぶりだね」
「…あ、は、はい……」
私の横でずっと黙って聞いていた百叶が、視界の端で僅かに首を傾げたのが見えた。
それに気づいた先輩は、一度百叶に視線を向けてから私を見た。
「お友達も一緒にさ、時間あったら2-6来てよ。謎解き脱出ゲームやってるから」
「…あ、はい……」
「朝井ぃ、腹減った早く行こうぜー」
後ろにいた、先輩の友達らしき数人が先輩に声をかける。
「あ、うん。…じゃあ、またね」
あの時と同じ、柔らかな笑顔を見せた先輩はそのまま背を向けて、人混みの中に消えていった。
「…柚、今の人、知り合い?夏休みぶりって…」
「あ…」
その姿が見えなくなると、隣にいた百叶が遠慮がちに私に問うた。
「…あ、う、うん、百叶と出かけた時に、ちょっと会っただけだよ」
「そ、そういうことね。柚がいつの間に、まさか先輩と仲良くなってるからびっくりしたよ」
「そ、そんな、仲良くなんて……少し、顔合わせたことあるだけだし…」
私は顔の前で手を振ると、百叶はでもよかったよ、と少し微笑んでまた、手に持った紙に目を移した。