ドロ痛な恋が甘すぎて アミュ恋2曲目
家の外に出て、アパートの場所を説明した。
お弁当屋さんがある商店街から一本奥に入ったくらい道を、綾星くんが歩く。
その後ろを私が遅れて。
さっきまで言葉を交わしていた過去が幻だったかのように、お互い無言のまま。
でも、それでいい。
きっともう、会うこともない人だから。
「このアパート……?」
やっと聞こえた綾星くんの声は、幽霊みたいに闇に消えそうで
「うん……」と答えた私の声も、綾星くんに聞こえたかどうかわからないくらいかすか。
でも……
やっぱりこれだけは伝えておきたいな……
「あの……」
無表情のまま立ち尽くす綾星くんの瞳だけが動いた。
視線が一瞬絡んだけれど、恥ずかしくなって逸らしたのは私の方。
「なに?」
「綾星くんの方が……良かったよ……」
「は?」
「シャーベットブルーの雫って曲。ヘッドフォンで聞いた歌より……綾星くんの声の方が……」
「ほのかさ、あれ誰の曲か知ってるの?」
「……知らない」
「あいつら、県内じゃそこそこ有名なアイドルなんだけど」
「でも綾星くんの粘っこい歌声の方が……私は……好きだから……」
「粘っこいって、褒めてないよな?」
ううん、褒めてるんだけどな。
すごく大好きな歌声だったって、わかってもらいたいんだけどな。
どんな褒め言葉を並べても信じてはもらえなそうで、言葉に詰まる。
「でも……サンキュー」
へ?
突然のお礼の言葉に驚いて視線をあげる。
そこにはさわやかな笑顔の綾星くんが。
綾星くんって、笑顔のレパートリーどれくらいあるんだろう。
透明感のある彼の瞳が、甘い声と共に優しく揺れた。