ドロ痛な恋が甘すぎて アミュ恋2曲目

 もうこれ以上読むのはムリと
 漫画を閉じようとした時。

「ご飯……できたよ……」
 と、ほのかがドアから顔を出した。


「あ……ありがとう……」


 そんな俺の声を
 ほのかは完全に無視。


 俺の目の前のローテーブルに
 黙々と料理を並べている。


 やべ。怒らせちゃかも。


 明らかに嫌がってたもんな。
 俺が『ドロ痛』を読むの。


 こんなマンガのために
 ほのかに嫌われたら。
 俺一生、『レイジ』こと恨むからな。


「野菜炒め、おいしそうじゃん」


 ほのかの機嫌を取るように
 声音を飛び跳ねてみる。

 反応なし。


「これ、カボチャサラダ?
 ほのかが作ったの?」


 これには、俺の顔を見ずに
 コクリとだけ頷いたほのか。

 相変わらず
 ピクリとも微笑んでくれない。

 
 マジでヤバいかも。

 ほのかの手料理を頬張る前に
 玄関から追い出されそう。


 そんな時、床をじっと見つめたまま
 ほのかがつぶやいた。


「笑ってくれていいから……」


 え?


「私なんかが
 こんなマンガ読んでるって……
 軽蔑してくれていいから……」


 やばっ。
 ほのか、泣きそうじゃん。


 こんな辛そうな顔させるために
 ほのかに会いに来たわけじゃないのに。


 苦しそうに瞳を揺らしているのは
 間違いなく俺のせい。


 どんな言葉を選べば
 ほのかが笑顔になってくれるのか
 わからなくて。

 俺は言葉を詰まらせた。



「タッパーに詰めるから。
 野菜炒め、持って帰ってください」


「え?」


「お家に帰って食べて。
 それとも、いらない?」


「おいしくつくれなかったし」と付け加え
 キッチンに消えたほのか。

 しばらくしてタッパーを手に
 うつむきながら戻ってきた。


 その時。

 野菜炒めの側に置いてあった
 ほのかの携帯が、震えだした。

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