ドロ痛な恋が甘すぎて アミュ恋2曲目

 玄関に行き、ドアを開ける。


「遅すぎ。ドア開けんの」


「ご……ごめんなさい……」


「ファンに見つかる前に
 入れて欲しいんだけど」


 言葉はきつめ。
 なのに、ニヤケ顔の綾星くん。


 ステージと違い
 悪魔モードが見え隠れしていて。
 ホッと安心してしまう自分がいる。


「どうぞ」とリビングに通すと
 綾星くんは手に持っていた買い物袋を、
 ローテーブルに置いた。


 料理の材料?


 今度は綾星くんが
 夕飯を作ってくれるって言ってたけど。

 本当に作ってくれるんだ。
 嬉しいな。ものすごく。


 買い物袋を見つめ
 目じりが下がりっぱなしの私に、
 綾星くんが意地悪な声を発した。


「ほのかに料理作るの、や~めた」


「え?」


「だって、自分で作れるだろ?」


「あ……うん……」


 浮かれていた心を
 いきなり撃ち落とされたような衝撃が
 全身に走る。


 そうだよね。

 ライブで疲れてる人に
 料理作らせるなんて。
 
 最低だよね。私。


 蒼吾さんの前に付き合っていた人には
 よく言われていた。


 『俺、疲れてるんだから。
  お前が料理作れよ』って。
 『女だろ?』って。
 

 そうだよね。私は女だし。
 男の人に料理なんて作らせちゃ
 ダメだよね。


 沈んだ気持ちを誤魔化すように
 できるだけ弾んだ声を出す。


「夕飯、
 何が良いかなぁ?」


 言い終わった後に残る
 虚しさ。寂しさ。

 
 抱いてしまった負の感情を
 綾星くんにバレたくなくて、
 もっともっと
 自分の顔に笑顔を塗り重ねる。


「ハンバーグにする? それとも……」


 それとも……何だろう……


 都合のいい女だった頃の
 あの惨めな気持ちが蘇ってきた。


「それとも……カルボナ……」


「ほのかって、グラタン好き?」


 え?


「あ……うん」


「じゃあ、決まりな」


 ちょ……ちょっと待って……
 私にグラタンを作ってということ?

 私、作ったことないよ……


 でも、作れないなんて言ったら……
 がっかりされちゃうよね……


「作ったことないけど。
 ネットで調べて作ってみるね。
 綾星くんは、ドロ痛を読んで待っててね」


 は~。


 良い子。気の利く子。
 相手に合わせる子。


 それってだだの
 都合がいいだけの女なのに。
 嫌われたくなくて、またやっちゃった。


 ため息と一緒に、口角も落ちる。


「ほのか、何言ってるわけ?」


 え?
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