きみに想いを、右手に絵筆を
 今より少しだけ小さな体で、俺は親父の胸ぐらに掴みかかった。

『何て事言うの、和奏っ!!』

 突如としてパシッと乾いた音がした。それと共に弾けるような痛みが走る。

 それまで優しいものでしか無かった母さんの手が、俺の頬を打った。

『……描かない』

 ゆらゆらと涙で滲んだ視界を、キュッと手で拭い、俺は両親に背を向けた。

『もう絵なんか描かないッ!!』

 自身の叫び声が脳内にこだまし、カッと視界が開けた。

「ーーハ……ッ!!」

 見慣れた白い天井を見るとは無しに見つめ、布団を握りしめた。

 そろりと上体を起こす。

 額には汗が滲み、心臓があり得ない速さで脈打っていた。

「……ゆ、夢か」

 息が上がり、気持ちを落ち着けるため、右手で顔を覆う。二、三度肩で息を繰り返した。

 眼前にある右手を見つめる。

 俺は果たして、本気で絵を描けるだろうか?

 コンクールに出す物だから、授業の一環として描くお遊びの絵なんかじゃない。白いキャンバスに油絵具を重ねて創る、俺だけの世界だ。

 ハァ、と溜め息がもれた。

 安請け合いなんて、するんじゃなかったな。
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