きみに想いを、右手に絵筆を
 杏奈は傷付きながらも、白河を悪く言う事はなかった。

 こいつのざっくばらんとした性格が好きで、友達になったんだよなぁ、とふと思う。

 杏奈とはこれからも良い友達ではいたい。彼女がそれを望むのなら……。

 特別棟で杏奈と話していると、急に廊下を駆けてタツが現れた。

「朗報、朗報〜っ、水曜日限定のアップルパイが今日売り出されるって! お前らも要るだろ、購買に走るぞ!」

 俺と杏奈の事を知っているのか、タツは俺らの間に割って入り、肩を組んできた。

「ハイハイ」

「言っとくけど、食いしん坊なのはタツだけなんだからね?」

 底抜けに明るいタツに、杏奈が抗議する。

 俺ら三人は、きっと卒業するまでずっとこの調子なんだろう。

 *

 それから数ヶ月が経ち、美術展の結果が新聞に載せられた。

 俺は白河の家にお邪魔して、その結果を見る事になった。

「お邪魔します」と声を掛け、玄関に上がると彼女のお母さんが俺を出迎えてくれる。

「和奏くん、立派になったわよねぇ。この間会った時、あんまりにも素敵になってるから、おばさん見惚れちゃったわ」

 白河のお母さんが頬に手を当てて、うふふと笑った。

 白河を駅まで送った時。やけにジロジロ見てくるなと思ったら、そういう事だったのか……。
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