黙って俺を好きになれ
小暮先輩といた頃ってどうだったろう。ふと思う。
あの図書室で時間と空間を共有して、ときどき言葉を交わしただけの甘酸っぱくも青くもない居心地。一人じゃないっていう安心感、みたいなものだった・・・?

「彼氏ってメンドクサイことも多いけど、今までやらなかったことしたり、どっか行ったり世界も広がるよー?糸子は難しく考えすぎ!」

「かもね」

苦笑いで返すと、エナは「そう言えばさー」とあっさり話題を変えた。

彼女のそういうところが好きかもしれない。とかくお節介焼きで押しつけがましいタイプは敬遠したくなる。高校時代の友人の顔が浮かんで消えた。年末になったら志保(しほ)から招集がかかりそうだ、みんなで会おうって。





それから1時間遅れで筒井君も合流した。

「誕生日おめでとうございまーす!」

ふにゃふにゃ笑いながら、可愛らしいガーベラのブーケをプレゼントしてくれた。
 
「糸子センパイにぴったりでしょー?」

かどうかは分からないけど、やっぱり花をもらうのは嬉しい。笑みをほころばせてお礼を言うと、「やったー」と彼のほうが大袈裟に喜んでいた。無邪気というか、なんというか。犬だったら思いきり頭を撫で回してあげたいところ。
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