黙って俺を好きになれ
「梶浦に付け入らせる真似はよせと言った筈ですが」

それでも山脇さんは全く動じた気配もなく、運転席から低くはっきり告げる。カジウラという名が人なのか何なのか不穏そうな単語が連なり、けれど皮肉や批判めいた口調でもない。

「女くらいで付け入らせるか、この俺が。・・・舐めた真似したのはどいつだ、イトコに余計なことまで吹き込んだろうが」

「・・・立場を考えちゃくれませんか。その嬢ちゃんにうつつ抜かしてる場合じゃないでしょう」

「・・・・・・山脇」

その一言で全身が総毛立つ。身が竦む。凄んだのとは違う、人間らしさが取り去られた声に。流れる血まで凍り付きそうだった。

「・・・どこまで見くびるつもりか知らねぇが。俺が決めた女に口出す気なら、それなりの覚悟でこい」

「・・・・・・・・・」

山脇さんは肯定でも否定でもなく沈黙していた。

あいだの空気がそこだけ真空になったかと思うくらい息詰まって。幹さんの顔を見ることすら出来ずにただもう、きつく目を瞑り胸元に縋りつくだけだった。
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