黙って俺を好きになれ
6-2
土曜日の夕方、約束どおり迎えに来てくれた幹さんはブルーグレーの三つ揃いに白のシャツで、ネクタイも水色とライトグレーの斜めストライプ柄を合わせている。車の後部シートで隣りに収まり、いつもと(おもむき)が違うのをつい見とれてしまった。

「今日は社長さんぽいですね」

思ったままが口から零れ、人が悪そうにあなたの口角が上がった。

「これも俺の仕事だからな。頭を使うのは嫌いじゃねぇが、イトコと違って読むのは相変わらずだ」

「先輩はどんな本を勧めても1ページめくったら終わりでした」

「悪いか」

腰に巻き付いていた腕にぐっと引き寄せられ、鼻の頭に噛み付かれる。

「!」

「お前の顔が見たかっただけで他に用があるかよ」

意地悪く笑んだ気配がして、そのまま繋がったキス。

言い方が少し、青さの残ったあの頃を思わせたけど。煙草と仄かな香水の香りと私を閉じ込める力強い腕に。浮かんだ思い出が浅くぼやけていった。
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