黙って俺を好きになれ
もどかしさを滲ませていた。でもそれ以上は言わず、「いいから食べろ」と冷たくでもなく私を促した。

痛みのような感情を殺した気配が伝わった。どう伝えれば。なにか言いたいのに胸が詰まる・・・!

人を好きになるってどういうことですか。
何を捨ててもかまわないと思えない自分は薄情ですか。
お父さんやお母さんを悲しませたくないと思う自分は、間違ってますか。
幹さんに応えたい。
そばにいたい。
好きなのに。
本当なのに、どうしたら・・・っっ。

駄目だと思った時には目から涙が溢れそうになっていた。こんなところで泣いてしまったら幹さんが変に思われる。

「・・・すみません、ちょっとお手洗いに・・・!」

隣りの椅子に置いていたバッグを掴むと返事も聞かないで席を立った。通りがかりのホールスタッフにトイレの場所を訊ね、急ぎ足で空いていた個室に駆け込む。

一瞬。・・・一瞬だけ。筒井君とだったら、って思ってしまった。逃げ道を残しているのかと自分に嫌気がさした。

好きになってその先をどうしたいんだろう。ただ離れたくないと思っていただけだった。幹さんの望みを叶えたいだけだった。

小暮幹という人のそばで私はどう生きたいんだろう。

落ちた涙の雫が、胸の内に波紋を広げていく気がした。
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