黙って俺を好きになれ
遠い過去形の口ぶりにそっと半身を振り返ると、無造作に乾かした髪のままの幹さんがこっちを見下ろしている。

「あの・・・、お母さんとは離れて暮らしてたんですか?」

表現を選んで遠慮がちに。離別なのか死別なのか、触れちゃいけないブラックボックスなのか。

「ガキの頃、お袋が心臓(からだ)壊して俺は親父に引き取られたからな。会わないうちに墓の下だ、ろくに顔も思い出せねぇよ」

不意に後ろから、くし切りにして乗せたトマトをボール皿から摘まみ、幹さんはさらりと言う。

「でも写真(アルバム)とか・・・」

「さあな。愛人の形見を残しはしねぇだろ」

・・・・・・え?目を見張った。

頭の中で散らばった言葉の断片を懸命に拾い集める。お母さんは愛人で。引き取られた・・・って、それじゃ。

半分は他人の家で、もしかしたら家族とも呼べないで独りきりだった?学校でも恐れ知らずの孤高の狼に見えたあなたは、本当はずっと。

放課後の図書室。寂しげな眼差し。居場所を欲しがる理由。数珠つなぎになっていく。
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