黙って俺を好きになれ
「そんな顔するな、どうってこともない。・・・今はお前がいる」

顔が寄せられ横を見上げたまま吐息が重なった。後ろ頭が捕まったかと思うと、角度をコントロールされながら深くなるキス。だんだん息継ぎの仕方が分からなくなるほど。幹さんの腕の中で必死にもがく。と、限界の手前でやっと解放された。

「大人しく待っててやるから、早くイトコの手料理を食わせろ」

淡く口角を上げ悠然とリビングに戻っていく背中を見つめる。どれだけのものを背負っているのか、私には計り知れないその背中を。

気を取り直して、沸騰し始めたお鍋に塩を入れスパゲティを二人分。あれこれと手を動かし続け、余計なことは考えないようにした。ただ幹さんに喜んでもらえるように、その一心で。



「すみません、お待たせして」

普段から外食が多いだろうし、パスタのあんには野菜もふんだんに使った。アボガドとトマトを乗せた玉ネギのスライスサラダ、鶏ガラの玉子スープもカップによそってリビングテーブルに並べる。

目を細めてそれを見渡した幹さんは、隣りに座らせた私の髪に満足そうにキスを落とした。

「どんな料理人も敵わねぇよ。一番美味(うま)いに決まってる」
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