黙って俺を好きになれ
日付も変わる間近、アパートに横付けされた車の中から幹さんに見送られた。『出せ』と山脇さんに低く告げた横顔は感情が削ぎ落とされ、ほんの数秒前、私を愛おしげに見つめた人かと思うほど。こっちを振り返る素振りもなく、滑り出した車はそのまま闇夜に溶けていった。



一日留守にしていただけの自分の部屋はどこも変わらないはずなのに、物寂しい気がする。帰ってきて今まで感じたことのない感覚。足りないような、心許ないような。私は幹さんの温もりを恋しがっているの・・・?

お風呂に入って躰を温め直し、早早(はやばや)とベッドに潜り込んだ。目を瞑ればすぐに眠りに誘われていく。

引っ越し、退職、両親のこと、・・・筒井君のこと。止まらないと決めて踏み出した足。明日からの自分。

取りとめもなく巡らせながら意識が落ちていった・・・・・・。




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