黙って俺を好きになれ
ドウシテ、キミハ、ソンナニ。

視界が滲んだ。素足にサンダルを履いた自分の足許がぼやける。優しくしないで。逃げ込める場所は作りたくない、もっと弱くなるから。諦めることを赦してしまうから。

「・・・幹さんは・・・、帰ってくる、から・・・っ・・・」

重力に引かれて目から雫が落ちていく。後からあとから。

ありがとうを言いたかった。ごめんなさいも言いたかった。でも言えなかった。

「言うと思ったけどねー」

溜息混じりの苦そうな声。下を向いた私の両頬が熱のある掌にやんわり挟まれた。そのまま上向かされて間近で筒井君と目が合って。逸らせなかった。

「あと二週間。ホワイトデーまでに小暮幹が戻ってこなかったら観念して、糸子さん」

顔が寄せられたのを咄嗟に躰を竦ませた。・・・キスをされるかと思った。額に吐息を感じ、筒井君は私を離した。

「オレを好きって言わせるよ」

ふにゃりと笑って。扉の向こうに君は消えた。




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