黙って俺を好きになれ
一つ一つ、言葉が自分の中に真っ直ぐ落ちてくる。

飾り気もない、だけど濁りもない。

もろく砕けたりしない。

あなたの心そのままに。


ふっと笑った幹さんが顔を寄せた。膝の上で固く手を繋ぎ、唇を交わす。答えは決まっていたけどすぐには聞いてもらえないみたい。

夢中で吐息を交ぜ合っているうちに運転席のドアが閉まる音。

「・・・出します」

冷めた山脇さんの声が溶かされかかってる頭の隅に届いた。

車が滑り出した震動を感じてしばらく。私の口の端を指先で拭ったあなたは、あなたらしく不敵そうに口角を上げてみせて。

「返事はあとでゆっくり聞いてやる。・・・(ウチ)に帰ってからな」

うち、の響きが優しかったのがなんだか切ない。安らげる居場所だと、幹さんが当たり前に思ってくれていることがこんなにも愛おしい。

帰りましょう。

明日があるとも知れない世界で生きるあなたの、硝煙の匂いが染みた腕に抱かれて。たおやかな時間を紡ぐ、ふたりの小さな楽園に。




FIN



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