黙って俺を好きになれ
「えーじゃあセンパイが来てくれないなら、オレもここにいるー」

『じゃあ』の意味も全く不明なんだけど。内心で溜め息。

目許が少し赤らんだ顔で隣りに胡坐をかき、相変わらずふにゃふにゃ笑ってる筒井君。この子は大らかな性格で人当たりがいい。仕事の成果はイマイチみたいでも愛されキャラだ。私が独占しているように見られたら厄介なんてものじゃないだろう。それを顔には出さずにもう一度、やんわり追い返しにかかる。

「上司やら先輩をほったらかしにすると面倒になるし、筒井君は戻りなさい?」

「そーやってジャマにしなくてもー」

いや。少しは空気読め。思わず胸の内で拳を握りしめたところで、前の方からどこからともなく筒井君を名指しで呼んでる声が。

「・・・ほら呼ばれてるから」

「はいはーい!」

よっこらしょ、と掛け声をかけながら立ち上がった彼は「ちょっと行ってきまーす」と笑顔をふやけさせ、足取りはしっかりと声に釣られたように歩いていく。

とにかく目立たず、自分の仕事はきちんとこなす。・・・これが波風立てずに安定した職場環境を手に入れる極意なんだから。

今度はエビチリに箸を伸ばして、私は自分でもよく分からない憂鬱な溜め息を逃したのだった。




< 3 / 278 >

この作品をシェア

pagetop