黙って俺を好きになれ
どうにかこうにか9時前にお開きになり、当然二次会のカラオケは遠慮するとそそくさ駅に向かう。エナはこういうのは皆勤賞で屈託ない。羨ましい気もする。

瑞鳳から駅までは歩いて15分ほど。飲食店が連なっていて道幅も広いし、駅に向かう人や逆方向の人影も割りとあった。

都会ではないから高層ビルやタワーマンションが建ち並んでもない。駅周辺が栄えた普通の街。3路線とおっていて利便性もそこそこ。

ビジネススクールまでは実家生活で、就職先に合わせ一人暮らしを始めた私。通勤時間40分圏内を目安に今のアパートを借りた。会社の最寄り駅から3駅隣りで、アパートまで歩いて18分くらい、時と場合によって自転車も使う。バス停も遠いわけじゃないけど時間が読めないから、通勤には不向きだ。

今日みたいに遅くなるのが分かってる日は、時間貸しの駐輪場にスタンバイさせてある。天気が崩れなくてよかった。・・・そんなことを思いながらスタスタ歩き続ける。と。

「・・・ッ、糸子センパイッ」

後ろから自分の名前が追いかけてきて、思わずぎょっとしながら振り返った。

「センパイ、(はや)・・・っ、追いつかないかと、思ったー!」

そこには肩で大きく息を切らせ、ふにゃっと笑う筒井君が。確か学生時代は陸上やってたとか。いや今の問題は別か。

「どうしたの・・・?エナと一緒に二次会に行ったんじゃなかった?」

怪訝そうに私は訊ねる。
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