黙って俺を好きになれ
たとえ半歩でも。踏み出してみたら自分が変わるんだろうか、景色が変わるんだろうか。

奥底に仕舞いこんだ、なけなしの勇気を引っ張り上げたら。

この手にも何かを。掬えるだろうか。

掌を見つめ、閉じて、開く。閉じて。開く。




心は、でも惑うだけで動こうとしない。それが躊躇いなのか臆病なのかも今の私には分からない。

筒井君のふやけた笑顔。
・・・・・・先輩の人が悪そうな笑み。

告白。
・・・不意打ちのキス。

あの人の低い声、香り、肩を抱いた腕。・・・勝手に再現されてしまう。筒井君を薄めていく、どんどん。心臓のもっと奥がきゅっと締め付けられる。訳もなく先輩でいっぱいになっていく。

のを。自分で自分を振り切った。

ダメ。チガウ。ソンナノジャナイ。・・・チガウ。

開きかけの扉に呪文を繰り返して。





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