黙って俺を好きになれ
洗い物を済ませ、付けっぱなしのテレビをぼんやり眺めながらベッドに寝転ぶ。

帰る間際。筒井君は真っ直ぐ突き抜ける目をして言った。

『歳下でも、オレちゃんと将来のこと考えてますよ。ボーナスも貯金してるし、せっかく入れた会社にかじりついてやろうって思ってるし。・・・糸子さんに普通の幸せあげる自信はあるから、オレにしといてくださいよ』

普通の幸せ。小暮先輩とでは願っても叶わない。・・・深く息を吐く。

まだ今なら。立ち止まって引き返せる。再会ごと思い出にして閉じ込めてしまえる。夢だったんだと思えばいい。大人になった先輩に会えた夢。・・・だったって。

そうすれば誰を悲しませることもない。先輩だってすぐに私を忘れる。・・・・・・本気で好きとか、きっとそういうのじゃない。後輩だからおざなりにできないだけ。

そう呪文をかけて。
なかったことにすればいい?




何もかもを。
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