こじらせ社長のお気に入り
自宅に帰って1人になると、思い出されるのは笹川ちゃんのことばかりだった。

〝誰にでもできる仕事〟

そう言われた時に見せた、ショックを受けた彼女の顔には、胸を締め付けられる思いがした。こんな顔をさせるために秘書にしたんじゃない。笹川ちゃんには、俺の横で生き生きと仕事をして欲しかったんだ。

それを公私混同と言われたら、否定はしない。いや、むしろ私的でしかない。

瑞樹は、起業して初めて言った俺のわがままを、何も言わないで聞き入れてくれた。

〝笹川柚月を、俺の秘書にしたい〟

そのたった一つのわがままを。




「誰かにとられるのを、指を加えて見ているつもりか?」

何度か言われてきた、瑞樹の言葉が蘇ってくる。
そんなの絶対に嫌なのに、踏み出せない自分がいるのも事実だ。

「自分の幸せ……か」

手を伸ばしてもいいのだろうか……

いつも通り答えを出せないまま、ゆっくりと眠りについた。







< 88 / 223 >

この作品をシェア

pagetop