必殺スキル<子守り>だけで公爵夫人になっちゃいましたが、ほのぼの新婚ライフは幸せいっぱいです
 エイミが笑うと、ジークはほっとしたように顔を緩めた。そして、ぎゅっとエイミを自分のほうに引き寄せ、包み込むように抱きしめた。

「これで大丈夫だ。俺は残虐公爵だからな。悪夢もきっと逃げていく」
「はい。悪夢もきっと、素敵な夢にかわりますね」

 どこまでも優しいジークに、エイミの胸はちくりと痛んだ。彼に嘘をついたからだ。

 今見ていた夢を、本当は覚えていた。過去の夢だ。嫌われ者で誰からも愛されていなかった頃の自分の姿。
 なぜか、最近よく夢に見るのだ。

(なんでだろう。こんな幸せで、もう思い出す必要なんてないはずなのに……)

「村に……ですか?」

 それはエイミにとって思いがけない提案だった。

「あぁ。視察で向かう先がエイミの故郷の村の近くなんだ。よかったら、一緒に行かないか」

 ジークは100%の善意で言ってくれているのだろうが、エイミは即答でイエスとは答えられなかった。
 故郷への思いは少し複雑だ。あまりいい思い出はないうえに、エイミとの再会を喜んでくれそうな人も思い浮かばない。
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