必殺スキル<子守り>だけで公爵夫人になっちゃいましたが、ほのぼの新婚ライフは幸せいっぱいです
 領主の城はエイミの村よりさらに北、ツィンガ連峰のふもとにあった。偉い人が住む場所としては、ずいぶん辺鄙なところだと思ったが、偉い人の考えることなどエイミにはわからない。深い事情があるのかも知れないし、なんの意図もないのかも知れない。

 城までは、エイミの村を含むノービルド領内北部を管轄する役人が案内してくれた。きっと村長よりは偉いのだろうが、言動は粗野で、あまり賢そうには見えない男達だった。

 ツィンガ連峰に近づくにつれ、道は険しくなり、デコボコ道が続いたが、領主が用意してくれたという馬車は今まで見たことないほどに豪華で、乗り心地も快適だった。
 下働きの女中ごときにこのような馬車を出せるのだから、やっぱり領主は雲の上の存在だと、エイミは改めて感心したものだ。

 夜もかなり更けた頃、ようやく到着した領主の城は、お城というより要塞といったほうがしっくりくる佇まいをしていた。
 大きく、立派な建物なのだが、華やかな装飾などは一切なく、質実剛健を体現しているようだった。
 
 それに、領主の住む城のまわりには街があり、人がたくさんいて、賑やかなのものかとエイミは思っていたが、そんなことは全くなかった。
 街からはかなり離れており、静かで、城のまわりはぐるりと険しい山々に囲まれている。
 あたりには蝙蝠が飛び交っていて、残虐公爵の城にふさわしい、おどろおどろしい雰囲気がよく出ている。

 役人は、エイミを城の城門付近にある小さな小屋に放り込んだ。すぐ隣に厩舎があるから、厩番の詰所のようなところなのだろうか。
 
 役人いわく、「夜更けに領主をたたきおこすわけにはいかないから、今夜はここで寝ろ。顔見せは明日だ」とのことで、エイミは黙ってうなずいた。

 だが、役人の男達は小屋から出て行こうとしない。領主の下働きと役人、どちらの立場が上かといえば、きっと役人なのだろう。つまり、彼らはエイミに遠慮して出ていく必要はないのだ。

 一晩くらい彼らと雑魚寝をしても、なにも問題ではない。

 そう思って、エイミが硬い床に横になろうとした瞬間、彼らが不穏な動きを見せた。

 これが現在、エイミが直面している新たな不幸だった
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