必殺スキル<子守り>だけで公爵夫人になっちゃいましたが、ほのぼの新婚ライフは幸せいっぱいです
 母親は残るふたりの妹がいかに価値があるかを語った。

「昨年の飢饉で、村長に多額の借金をしちまってる……逆らったら、どうなるかわからない」

 父親は自身の弱い立場を力説した。

 そして、ふたりで示し合わせたように同じセリフを口にする。

「やっぱりお前の見た目がね……。村に残ってたって、嫁にも行けない。皆がそう言うんだ」

 エイミは両親に、にこりと微笑んでみせた。

「そうよね。ミアやアイリーンを行かせるわけにはいかないもの。私が行くのが一番だわ。心配しないで、家事は得意だもの。下働きなら、きっとうまくやれるわ」

 両親はそろって、ほっとしたように息をついた。

「うんうん。エイミは本当にいい子ね」
「あぁ。さすがはお姉ちゃんだな」

(そうね。私はずっといい子だった。……都合のいい子で、どうでもいい子。どうなっても構わない子)

 売られることが決まった瞬間から出発の日まで、エイミは笑顔に似たなにかを常時、顔にはりつけていたのだけれど、両親はちっとも気がつかなかった。

 妹達や村の誰かに悲しい思いをさせるくらいなら、行くのは自分でいい。それはエイミの本心からの言葉だった。

 ただ…ただ、ひとことでいい。

「辛い思いをさせて、ごめんね」

 両親からのそんな言葉を、エイミは待っていた。そして、最後に思いきり抱きしめてほしかった。

 だが結局、願いは叶うことなく、エイミは村を出て、領主の住む城へと向かうことになった。
 
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