新婚未満のかりそめ初夜~クールな御曹司は淫らな独占欲を露わにする~
 あらゆる可能性を考えると入る勇気が出ず。そっと踵を返してバレないように私は家を出た。

「なにも言わずに家を出てきちゃった」

 いつもは必ず大家さんに『いってきます』と伝えていたのに。絶対変に思われるよね。
 だけどまだジョージさんとどんな顔で会えばいいのか……。

 満員電車に乗って最寄り駅で降り、大勢の人が行き交う改札口を抜ける。少し歩けば本社ビルが見えてきた。

 だけど朝は顔を合わせずに済んでも、ずっととはいかない。会社では絶対会うわけだし。

 でもさっきの大家さんとのやり取りから推測するに、ジョージさん、昨夜のことを覚えていなそうだったよね?
 だったら返って避けたりしたら不自然に思われるのでは?

 グルグルと考えながら歩を進めていると、背後からポンと肩を叩かれた。

「わっ!?」

 変な声を上げると、肩を叩いた井手君は目を瞬かせた。

「わ、悪い。そんなに驚くとは思わなくて」

「ううん、こっちこそオーバーに驚いちゃってごめん」

 肩を並べて会社へと向かう。
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