クールな王子は強引に溺愛する
今日お父様は狩猟をしないはずだわ。まだ朝も早いのに誰かしら。
不思議に思い、モリーと顔を見合わせていると駆ける音は次第に近づいてくる。
新緑の木々の間を割り、馬の嘶きとともに手綱を引いた青年が現れた。
馬は毛艶のいい黒毛をぶるりとふるわせ、エミリーたちの近くに立ち止まった。
青年を視界に収めたエミリーは言葉を失う。
朝日を浴びた黒髪は青みがかったように輝き、深く濃い碧眼の双眼がこちらを見下ろしている。
「リアム王子……」
驚きで呟いた声に、リアムは眉を上げた。
北東の森を抜け、麦畑や多くの都市を抜けた先に頑丈な石壁に守られた王都があった。
ここからは早馬で急いでも二日はかかるほど遠い。
そこに暮らす第二王子であるリアムが、ふらりと現れる状況はありえない。
薄い唇と精悍な面立ち。涼しげな目元がより一層引き締まった逞しさを印象付ける。
瞳と同じ深い群青色の軍服に身を包み、左肩にかけたペリースと呼ばれるマントが風に揺れている。