赤い宝石の約束


蓮のお墓参りに行った。


お墓は蓮のお父さんのお店からバスですぐの所だった。


蓮、遅くなってごめんなさい。


10年じゃなくて、20年も経っちゃったね…


約束守れなくて、本当にごめんなさい。


絵の中の、赤いシーグラス見たよ。


見つけてくれたんだね、


ありがとう。


お墓には名前と年齢が彫ってあった。
平成●●年5月11日亡 清水蓮 19歳


急にあの海に行きたくなった。


ここからだと、車で30分程だ。


タクシーで行ってみよう。


蓮のお父さんに住所を聞いた。


すると、


『もうすぐお店が空くから連れて行ってあげるよ。ちょうど向こうに用事もあるし。
そうだ!車持ってきてくれない?これ、うちの鍵。そこを曲がって少し行った所の茶色い屋根の家だから。車の鍵は玄関入って横の壁にかかってるよ。』


と、私に家の鍵を渡した。


『あっ!蓮の部屋2階だから。入って顔見せてあげて。』


蓮の家に着く。


鍵を開けた。


すぐに2階のへ向かった。


ドアを開けた。


部屋にはベッド、机、木製のイーゼルに真っ白いキャンバスと椅子が置いてあった。


カーテンを開けると、


部屋中に陽の光が差し込み、


眩しいくらい明るい。


そして目の前には真っ青な海だ。


バルコニーへ出た。


風がとても心地よい。


しばらく海を眺めた。


キラキラ光る海と、薄茶色の砂浜。


って、あれ?もしかしてこの家って…


こないだリナと来た時みた家だった。


あの時、男の人がここで座っていた。


あれは誰?


すぐに手帳を出した。


リナと来た日、リナと来た日…


5月11日。


蓮の命日!?


あれは蓮だったの?


蓮、ここにいたの?


問いかけに答えてくれるはずもなく、


聞こえるのは静かな波の音だけだった。


車に乗ってお店へ。


蓮のお父さんは外で待っていた。


私は車を停車させ、助手席に移動した。


『さっ、行こうか。』


『はい。お願いします。』


車は走り出した。


蓮のお父さんが、


『そういえば涼とは連絡取ったの?』


と聞いた。


『いや、なかなか電話できなくて…』


『そっか…もう何年会ってない?』


『ちょうど20年です…もう覚えてないんじゃないかな…』


『いやいや、ちゃんと覚えてるよ。』


『そうですかね…』


『ほら、シーグラス。蓮にね、俺がちゃんと大事にするって言ってたよ。そうそう、涼、瓶の中にカニ入れようとしたんでしょ?』


『そうなんです…』


『本当、おもしろいやつだよな〜』


『はい…』


『実はね、絵には赤いシーグラスが入ってるけど、実際は入ってなかったんだよ。』


『そうなんですか!?』


『2人で探しに行ってたけど、見つからなかったみたいで。蓮は、真央ちゃんに会った時、残念がらないようにって、あの絵を描いたんだ。涼はね、会うまでには絶対見つけてやるって。』


『見つかったかな…』


『どうだろ…カニが入ってるかもね。』


『うふふ』


『涼はね、3才の頃母親が死んで、小学校1年の時かな…親が再婚して。すぐに子供ができたから、母親にはずっとほったらかしにされててね。双子の育児ストレスもあって、きつくあたられてたらしいんだ。あの明るい涼がだんだん話さなくなったって。』


『えっ…?』


『涼の父親とは古い友人でね、そんな話を聞いたから、気晴らしに泊まりにくるか〜って誘ったんだよ。あの時、真央ちゃんに会って、涼は沢山元気もらったんじゃないかな。』


『そうだったんですか…』


『蓮とはあれから仲良くなって、よく1人で遊びに来てたよ。蓮も友達が少なかったし、母親もいなかったから、何か重なるものがあったのかもしれないね。』


『そうだったんですか…』


『涼は明るいから、僕も蓮もすごく助けられたよ。中学卒業と同時にね、でっかいバック持って来て。俺はおじさんみたいな料理人になりたい!修行させてくれって。』


『えっ!?』


『涼の父親と話したら、いろいろ事情があったみたいで、うちで引き取ることにしたんだ。料理人になりたいっていうのは本当でね、専門学校行きながら夜遅くまで頑張ってたよ。今はね、なんか大きな店で頑張ってるみたいだよ。』


『私…なんで約束忘れちゃったんだろう…2人に本当申し訳なくて…あんな約束しなきゃよかった…』


『そんなことはない。蓮はね、生きられても15までって言われてだんだ。でも19まで生きられた。4年も多く生きた。真央ちゃんと、涼のおかげかな。』


海に着いた。


『ちょっと知り合いの所へ行くから。また後で迎えにくるから。』


『はい!ありがとうございました!』


蓮のお父さんを見送り、浜辺へ。


ここで、2人はずっと探してくれてたんだね…


よし!私も探す!


浜辺を行ったり来たりした。


でも、そう簡単に見つかるはずもなく…


諦めかけた時、岩場が目に入った。


カニ…いるかな…


岩場へと歩いた。


岩と岩の間を覗く。


なかなか見つからない…


『あのーそこに何かいるんですか?』


男の人の声だ。


でも、蓮のお父さんじゃない。


『えっ!?あっ…いや、カニを…』


見ると、そこに立っていたのは、


涼だった。


20年経っても昔のままだ。


『あの、そこに、何かいるんですか?』


『カニがいる…はずなんです。』


『見つかりましたか?』


そう言ってこちらにやってきた。


当たり前だけど、


身長伸びたな〜


なんて思っていると、


勢いよく波が。


『うわっ!?』


転びそうになった私を涼が支えた。


『ったく…本当そそっかしいな。』


『ごめんなさい…』


『また、転ばないようにして下さいね!』


そう言うと、砂浜まで連れ出してくれた。


『元気だった?』


優しい声に泣きそうになる。


『あの…ごめん!約束守れなくて、ごめんなさい!!』


『それより、ほら!あそこ!』


見ると、大きな流木の上に瓶が。


赤いシーグラスが光っていた。


あの絵と同じだ。


『すごい!本物だ!!』


『あいつの描いた絵見たろ?』


『うん!私のために赤いシーグラス描いてくれたって。』


『あいつと約束してたんだ。あいつは絵で、俺は本物を、お前に会うまでに絶対見つけるって。でもさ、やっぱりなかなかなくて…
あきらめようとしたとき、蓮が夢に出てきたんだよ。』


『夢に?蓮が?』


『まさかと思ってこの海岸来たら、これがあって…信じてもらえる?』


『うん…だって私の夢にも出てきたもん。』


『マジで?なんだって?』


『やっと見つけたって。ずっと探してたって抱きしめられた。もしかしたら赤いシーグラスの事だったのかな…』


『抱きしめ…』


『で、この間、もう1回でできて。涼をお願いって。』


『お願いって…あいつ…』


『きっと蓮が会わせてくれたんだね。』


『そうだな…』


『私ね、友達に誘われてあのハンバーガー屋さんへ行ったの。でね、その日は偶然蓮の命日で。食べた後、浜辺を歩いてたら、ベランダで絵を描いてる人がいて…あとで知ったんだけど、蓮の家だったの。蓮が見えたんだよ!夢じゃなくて、現実にも出てきてくれたんだよ!すごくない?』


『蓮の命日?いや、それ俺だから。』


『えっ!?そうなの!?』


『俺さ、毎年命日にあいつの家行くんだよ。で、あそこで絵を描くのが好きだったあいつの為に、キャンバス、だしてあげてたの。』


『そうなの!?そうだったんだ…私てっきり蓮かと…でも、涼は優しいね。』


『あいつとは兄弟みたいなもんだから。あいつの思いは叶えてやらねーと。はいっ!やるよ!』


瓶を私にくれた。


『いいの?』


『もともと、お前が持って帰るはずだったし。』


『嬉しい!ありがと!』


『しっかし変わらねーな。』


『ん?』


『すぐわかったよ。』


『そっちもだよ!あの時のまま身長が伸びたって感じ。』


『お前なぁ…俺だってこれでもモテモテなんだぞ。』


『そうなの?結婚は?』


『してない。』


『彼女は?』


『いない…』


『ふふふ』


『で、お前は?』


『いない…』


『あはは』


『…』


『赤いシーグラスってさ、見つけたら願い事が叶うって知ってた?』


『そうなの?』


『でさ、俺、俺の初恋を実らせて下さいってお願いしたわけ。』


『そっか…初恋は実らないっていうからね。』


『でさ、叶うと思う?』


『ん…うん!叶うと思う。』


『じゃ、俺とさ…』


『ん?』


『俺と、付き合ってください。』


『…?』


『だから、俺と、付き合ってください!』


『えっ!?わたし!?』


『他に誰かいるか?』


『いや…んーとね…』


『うん…』


『んーと』


『私と…』


『うん…』


『結婚、して下さい!』


『えっ!?』


『うふふ…冗談だよ!』


『おまえ…』


『でも、大好きだよ!』


『は!?』


『だから、大好きなの。前にも言ったでしょ!大好き!って。』


『そっか…それじゃあ…』


『うん!よろしくおねがいします。』


すると涼は波打ち際まで走り、


海に向かって、


『蓮!やったぞー!!!』


と叫んだ。


『蓮?』


『あいつの初恋もお前なんだよ。』


『そうなの!?』


『あいつの遺言。お前は絶対に会いに行って、自分の分まで幸せになれって。』


『蓮…』


『まっ、遺言から10年も経っちまったけどな。』


『10年…あっという間だったな…』


『そうだな…でも俺ね、10年後の今でよかったって思ってる。』


『なんで??』


『仕事もそれなりだし、収入もあるし、気持ち的にも余裕があって。これが10年前だったら、付き合っても幸せにできなかったと思う。』


『でもさ、私、結婚しちゃってたかもしれないよ。』


『ん?それはない。』


『えっ!!!』


『だって、蓮がそうさせねーよ!』


『…』


『なんだよ…』


『いや…本当に涼っておもしろいなぁ〜って(笑)』


『また笑う。』


『でも、お仕事、頑張ったんだね。』


『まぁな…』


『えらい、えらい!』


『だからそのさ…』


『ん?』


『だからそのだな…』


『うん。』


『いや、それはまた今度にしよ!』


『えっ!?なになに?』


『あのさ、俺も、抱きしめていいか?』


返事をする間もなく、ギューっとされる。


あったかくて、幸せだ。


私も手を回して、ギューっとした。


涼の心臓の音が響いてくる。


『もうずぅーっと一緒だからな。』


『うん……………あっ!』


『なに?』


『これって、夢じゃないよね!』


涼の顔を覗き込む。


涼は少し驚きながらも、


『夢じゃないよ。』


そういって、優しくキスをした。


目を閉じた。


波の音は消えない…


涼の温もりも消えない…


そう、これは現実。


『私のことすき?』


『ん?す…す…うん、まぁまぁ…かな?(笑)』


 

                  完
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