赤い宝石の約束



『お母さん?あのさ、私が小学校の時に、お父さんの友達の家に泊まりに行ったの覚えてる?』


『どうしたの?突然…』


『いや、あの…その…行ったかなーと思って…あはは』


ここでまた、夢で…なんて言ったら心配されるよね…


『清水さんとこ?』


清水!?


実際にいるの!?清水蓮!!


『そうそう!場所とか覚えてる?』


『わかるけど、あれからしばらくして清水さん引っ越したみたいだから今はいないよ。』


『そうなの?』


『ほら、息子さんが病気だったから。大きな病院がある近くに引っ越したんだよ。』


『病気だったの!?』


『20歳になる前だったかな…亡くなったよ。』


『亡くなった!?』


『お葬式にお父さんと行ってきたから。ほら、あの子もいたよ。一緒に泊まってた子…木村さんだったかしら。』


木村…


木村涼…


涼もいるんだ…


『お母さん、場所教えて!』


すぐにレンタカーを借りに走った。


車でしか行けない場所だったから。


運転なんて久しぶりだけど、


どうしてもあの海へ行きたかった。


ナビをセットする。


ここから2時間半…


よしっ!頑張ろ!


不安と期待で、胸がドキドキしていた。


あっという間の2時間半だった。


見覚えのある海。


夢の中の海でもあり、


遠い過去の海でもある。


そう、ここだ…


しかし、昔とは違っていた。


浜辺には沢山の流木と、


流れ着いたゴミの山。


蓮の家があった場所は雑草が生い茂っていた。


周りの家も、空き家なのか、人が住んでる気配は全くない。


とても寂しい海岸だ。


浜辺を歩いた。


ジャリ、ジャリ、ジャリ…


砂に混ざった貝殻。


歩くたびに音を鳴らした。


波の音と混ざると、とても心地いい音で、


気がついたら遠くまで来ていた。


そろそろ戻ろう…


引き返そうとした時、


キラッと光るものが落ちていて。


青と緑の大きなシーグラスだった。


これって…


過去の記憶が蘇る。


3人で赤いシーグラス探したんだ。


でも結局見つからなくて、


私と涼は緑。


蓮は青。


それぞれ1つづつ見つけて。


それで…


その後は…


瓶に入れたんだ。


確か、蓮のお父さんがくれた瓶。


それで…


その後…


。。。。。


ダメだ…


思い出せない…


そうだ!


蓮のお父さんに会いに行こう!


すぐにリナに電話し、場所を教えてもらった。


ここからは車で30分。


よし、行ってみよう。


お店に着いたのはいいけど、


ドキドキ緊張して、心臓が飛び出しそうだ。


本当にあの人は、蓮のお父さんなのだろうか。


夢の中では確かにお父さんだったけど、


実際はわからない…


でも、もしお父さんだったら、


私は会ってるはずだよね…


どうしてわからなかったんだろう…


小学3年の記憶なんてそんなものだ。


お店に入る。


奥からオーナーがやってきた。


『あの、突然すみません…』


『はい。』


『人違いだったらすみません…もしかして、清水さんですか?』


オーナーはにっこり笑って、静かに頷いた。


『そうだよ。真央ちゃん。』


『えっ!?なんで…』


『去年お父さんのお葬式でみかけたから。こないだも声をかけようかと思ったんだけど…忙しくて、ごめんね。』


『いや、私こそ…気づかなくって…』


『よく思い出したね。立ち話でもなんだからどうぞ。』


窓際の席を案内してくれたけど、


カウンターの、あの絵の前に座らせてもらった。


『この絵、もしかして…』


『そう。真央ちゃん達が拾ったシーグラスだよ。蓮が亡くなる前に描いたものなんだ。』


『………』


『確か、蓮が青で、涼が緑で、真央ちゃんが赤だったかな…』


『私が赤?でも、赤は見つからなかったんじゃ…』


『そうそう。僕があの時、赤はレアだって話しちゃって。真央ちゃんが絶対探す!って。みんなで探したんだけど、みつからなくてね。』


『この瓶て…』


『ちょうどジャムの空いた瓶があったから、それに入れときなって渡したんだよ。そしたら3人で海へ走って行って。帰ってきた時、真央ちゃんが怪我してて。覚えてない?』


『いや…』


覚えてません…


『本当は、真央ちゃんが瓶を持って帰るはずだったんだけど、帰りに蓮に渡したんだ。ずっと大事に持ってたよ。今は涼が持ってるかな?』


『涼が!?』


『今でもたまにここへくるんだよ。ふら〜っとね。』


『そうなんですか!?』


『連絡してみる?』


『…はいっ!』


蓮のお父さんはすぐに電話をしてくれたけど、涼は出なかった。


よかったら連絡してあげてと、紙に連絡先を書いてくれた。


『ハンバーガーでも食べていく?』


そうだ…今日は何も食べてなかった。


気づいてしまうと、一気にお腹が空くわけで、


『いただきます!』


蓮のお父さんに会えたけど、


瓶の中のシーグラスの事もわかったけど、


まだスッキリしないのは何故だろう。。


家に着いた。


疲れた…


なんだかもう、ぐったりで。


ソファーで寝転びながら、ポケットに入っていたメモを取り出す。


涼の番号だ。


私のこと、覚えてる?


夢の中の男の子は実際にいて。


夢の中の出来事は実際の過去のことで。


夢の中の私は実際の私で。


でも、まだ思い出せない何かがある…


なんだろ、、、


なんだろ、、、


なんだろ、、、


そんな疑問を抱きながら、


いつの間にか、


眠ってしまっていたのだった。

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