透明な世界で、ただひとつ。


「みんなも気付いている通り、畑が病気で失明し白杖を使うことになった。

今日と明日で学校生活は終わるが、みな手伝ってあげるように。」



病気で失明する...なんて話、誰にもしてこなかった。

初めて聞かされる事実に驚かされているであろうクラスメイトや噂を聞いてきたであろう他クラスの人。

朝礼の後教室はいつになくザワザワとしていた。



「堺、今日は校内でのことは柚香に頼んでないから頼んでいい?」

「ん、いいよ。」



私は机に立てかけておいた白杖を取り立ち上がる。

白杖が鳴らす音が耳に届く。
人が私に向ける話し声が少し遠巻きに聞こえた。



「ねえ、今年は桜はいつ咲くかな?」

「どうだろね、予報だと半月ちょっと後みたいだけど。」

「そっか。」



もう花粉は飛び始めて、春の空気の匂いがする。

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