花屋敷の主人は蛍に恋をする




 「花が好きだったけど、触れないなら意味ないって全然名前とか覚えようとしなかったんだ。だけど、やっぱり名前を知れると楽しいね。教えてくれて、ありがとう」
 「…………何でそんな風に言うんですか?私はまだあなたと………」
 「………あなたみたいな花好きな人と一緒に居ても、自分が哀れになるだけ。それに、名前に植物の名前だらけの樹くんはずるいよ……羨ましすぎる。そんなあなたに触れたら、私が枯らしてしまうわ………」
 「………碧海さん………」


 いつの間にか、彼女は笑顔になり樹が泣きそうになっている。
 そんな樹を見て、碧海はゆっくりと背を向けた。


 「ありがとう、樹くん。とっても楽しい時間だった。………枯れない向日葵………触れてみたかったな………」


 そう言うと、碧海は小さく手を振って、研究室から出ていってしまった。


 樹は俯き、手を強く握りしめたまま動けなかった。
 彼女を傷つけるとわかっていて、追いかけて手を握り、引き留めるほどの強さはないのだと思い知ったのだった。



 
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