花屋敷の主人は蛍に恋をする




 そう言うと、日葵は「よろしくな」と言って自分の席に戻ってしまった。そして、いつものようにスケッチブックを広げると、鉛筆を持って何か描き始めた。日葵はいつも何かを描いていた。クラスからみた外の景色でもあったし、外に出て中庭に座り込んだりして、没頭しているのだ。
 始めは変わった子だと思われていたが、彼の人柄や勉強も運動も優れている事から、「かっこいい趣味」として、みんなに受け入れられていたのだ。


 菊那は自分の元にポーチが戻ってきた事よりも、日葵が前と変わらずに話しかけてくれた事が何よりも嬉しかった。

 悔しそうに顔を歪めて日葵を睨む彼女達の視線はとても気になったけれど、菊那は日葵にポーチをプレゼントする事が嬉しかった。佳菜の名前をほどいてしまうのは悲しかったので、1から作り直して新しいものをプレゼントしようと菊那は思った。ポーチを助けてくれたお礼をするためにも大切に仕上げようと心に決めた。
 


 けれど、その日から少しずつ暗雲がさらに濃いものになっていったのだ。
 いじめの標的が菊那から日葵に変わりつつあったのだ。


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