花屋敷の主人は蛍に恋をする
11話「レッドインテューション」





   11話「レッドインテューション」




 菊那を助けた日葵へのいじめはゆっくりと始まった。始めは「可愛いのが好きなのか」という、いじりの言葉だったが少しずつ無視が始まり、とうとうクラスメイト全員から無視されるようになってしまったのだ。その変わりに菊那へのいじめは少なくなっていた。佳菜からも「あの時はごめんね」と言われ、声を掛けられる事もあり仲が戻りつつあった。けれど、1度傷つけられた思いは残ってしまい、モヤモヤとした気持ちだけが菊那の心に居座り続けていた。きっと、元通りの関係にはなれない。そんな予感がしていた。


 それに菊那が1番心配なのは、日葵の事だった。彼は無視をされても、やれやれと言った様子で気にする様子もなく休み時間は絵を描き、用事があればいつもと変わらず友達に声を掛け、返事がなければ「伝えたからな」と、自分の用件だけをしったり伝えてさっさと帰ってしまうのだ。そんなサバサバとした彼が気にくわないのか、いじめの中心メンバーは物を汚されたりもしていた。だが汚されても綺麗にして使ったりと、泣いたり怒ったりはせずに、淡々と生活をしていた。
 けれど、菊那は心配だった。大丈夫そうに見えても、心は悲鳴を上げているはずだとわかっていた。同じようにいじめをされていたのだから。菊那より状況が酷いのだから尚更だ。


 菊那はその日、登校してすぐに彼を探した。下駄箱に彼の靴があったので来ているようだが、クラスに彼の姿はなかった。またどこかで絵を描いているのかもしれない。菊那は校内を探すつもりでいたが、1つ考え付く場所があった。そこにいるかもしれない。菊那は急いでその場所へと向かった。
 夏のむし暑さの中でも、よそよそとした、風がとても心地の良い場所。それが裏庭だった。プールぐらいしかないその場所は普段は人気がない。木々や草が生い茂っている場所のちかくに小さな花壇があった。そこに大きな向日葵が咲いていた。その前に制服が汚れるのも気にせずに座り込んでいる生徒が居た。
 茶色の短髪の髪の彼だ。菊那はすぐに日葵だとわかり、彼に駆け寄った。


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