きみがため
 桜人くん。その呼び方に、ぎくりとしてしまう自分がいた。

「……そう」

私はそれだけ答えると、足早に、浦部さんの隣を通り過ぎる。

バス停でバスを待っているとき、ふいに振り返れば、ウインドウ越しに、仲睦まじげに話している桜人と浦部さんの姿が見えた。

――心の何かが、音をたてて崩れていくのを感じた。

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