きみがため
桜人は三日で退院になった。

そしてさらに五日後に、光の退院も決まる。

土曜日のその日、光の退院に付き添うために、お母さんと一緒に朝早く家を出た。

お世話になった看護師さんやお医者さんへの挨拶をすませ、退院の手続きを終えてから、病院を出る。

すると、エントランスの柱に寄りかかるようにして、桜人が立っていた。

フード付きのグレーコートに、黒の細めのジーンズ。

私服の桜人は、相変わらず背が高くて大人っぽい。

病院から出てきた若い看護師さん三人組が、そんな桜人にチラチラ視線を送りながら通り過ぎていく。

「さっちゃん!」

桜人に気づいた光が、顔を輝かせて駆け寄る。

光の頭をわしゃわしゃと撫でながら、「光、退院おめでとう」と桜人は笑った。

「もう、無茶するなよ」

「分かってるって。さっちゃん、また遊んでくれるんでしょ?」

「おう。いつでも遊んでやる」

桜人の返事を聞くなり、光は花開いたように笑った。

本当に桜人が好きなんだなあと、姉として軽いジェラシーを感じてしまう。

するとふいに、桜人と目が合った。

「光。ちょっとだけ、お姉さん借りていい?」

「いいよ!」

それから桜人は、お母さんに向かってぺこりと頭を下げる。お母さんは「ふふ」と何かを含んだような笑い方をした。

「私と光は先に帰ってるから、ゆっくりしていきなさい」
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