きみがため
「皆が皆、ちゃんとしてるわけじゃないでしょ? どうして私たちだけ非難されるわけ?現に、皆を取り仕切る実行委員ですら、小瀬川くんが仕切ってるだけで、もうひとりは何もしてないじゃん」

唐突に自分のことを言われて、胸を打つような衝撃を受けた。

“もうひとり”。

そんな他人行儀な呼び方をされたことにも、ショックを受ける。

クラス中が、静まり返っていた。

誰も、何も言い返さない。

おそらく、美織の言ったことが紛れもない事実だったからだ。

仕切ってるのは小瀬川くんで、私は彼に言われたことをこなしてるだけ。

頑張らないとと思っても、どう人をまとめていいのか分からなくて、結局いつも桜人のサポート的な立場に引き下がっている。

「とにかく、実行委員すらちゃんとしてないのに、ちゃんとやれって言われる筋合いないから」

美織は目の前にいる斉木くんをキッと睨むと、背後にいる私に視線を移した。

その目は、私を激しく拒絶していた。

冷たくされても、ここまでの露骨な悪意を、彼女から向けられたことはない。

喉が塞がれたような息苦しさを覚え、私は立っているのもやっとだった。

やがて美織は、バッグを手に取り、怒った勢いそのままに教室を出て行く。

「美織、待って!」

その背中に、慌てたように杏が声をかける。

バッグを掴んだあとで一瞬だけ私と目を合わせた杏は、気まずそうな目をしてすぐに逸らした。

ふたりがいなくなった教室は、しばしの静寂に包まれた。

皆の意識が、私に向いているのが伝わった。

汗ばんだ掌をぎゅっと握る。

「……気にしないでいいよ、真菜。あんなの、言いがかりだよ」

夏葉が励ますように肩に手を置いてくれたけど、私は曖昧に笑い返すことしかできなかった。

「道具係、そういえば買い出しリスト作った?」

桜人が何事もなかったように動き出し、やがて皆も、我に返ったようにそれぞれの作業に戻っていく。

その様子を見ているだけで、また心が乾いたようになった。

桜人は、皆をまとめてる。

だけど私は、まとめるどころかチームワークを乱している――。

悶々としていると、斜め後ろから視線を感じた。

振り返ると、こちらをじっと見ていた浦部さんと目が合う。

浦部さんは勝気な瞳でしばらく私を見たあと、プイッとそらした。

それから、同じ衣装担当の子たちに楽しそうに声をかける。

浦部さんのいるチームは、和気あいあいとしてうまくいっている様子だ。

私は、どうしようもない劣等感に苛まれていた。
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