きみがため
次の日の放課後、各クラスの文化祭実行委員が集う委員会が、視聴覚室であった。

教室までの帰り道、人気のない渡り廊下で、私は思い切って先を歩く桜人を呼び止める。

「あの、話があるんだけど。ちょっといいかな……」

「なに?」と桜人が足を止めて私を振り返る。

言いだしにくい話で、切り出すのを躊躇ってしまう。

だけど桜人は、せかすことなく、ただ静かにじっと、私が口を開くのを待ってくれていた。

「私、文化祭実行委員、辞めようかと思ってるの……」

思い切って、ついに口にした。

すると、桜人の顔が、みる間に凄んでいく。

「は? どういうこと?」

「美織と杏があんな態度なのは、私が実行委員だからでしょ? 美織と杏は、私のことあんまりよく思ってないから……。それに私、実行委員としてあまり役に立ててないし……。浦部さんが実行委員やりたいって言ってたから、代わった方がいいと思うの」

自分で言っておいて、情けなくなる。

だけどもう、私は限界だった。
桜人は凄んだ顔のまま、固まったように私を見ていた。

そんな彼を見ていると、なぜか罪悪感が込み上げてきて、下を向く。

すると、頭上から低い声がした。

「……ふざけんなよ」

桜人のここまで怒った声を聞くのは初めてで、背筋がぞくっとする。

「逃げるなよ」

「逃げてなんか……」

「逃げてるだろ、こっち向けよ」

怖くて上を向けないでいると、大きな掌が、頬に触れた。

強引に、だけどあくまでも優しく、上を向かされる。

間近に、怒りを滲ませた茶色い瞳があった。

「この先も、何かつらいことがあるたびに、お前はそうやって逃げる気か」

なぜか泣いているようにも見える桜人の顔から、目が離せなくなる。

「逃げるなよ。どうしたら前に進めるか考えろ」

桜人にこんな厳しい態度を取られたのは、初めてだ。

「どうしたらって……分かんないから悩んでるんじゃない」
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