きみがため
力強く見つめられながら、私は目を見開いた。

そんなふうに、思ったことがなかったからだ。

人によってはそんなふうにも見えるのかと、冷水を浴びせられたような気持ちになる。

桜人が、また悲しげに言い放った。

「――自分の家庭環境を卑屈にしてんのは、お前自身だろ?」

桜人のそのひと言が、心の奥まで響いて、繰り返し耳元でこだまする。

――私、自身……?

もしも、家庭環境を知られたら美織と杏に受け入れられない、と私が決めつけていなかったら。

美織と杏が、中学のときの友達と同じ態度をとるとは限らない。

もしも、自分を包み隠さず、ありのままの姿で接していたら。

ふたりとの関係に、なにか変化があっただろうか。

私は、桜人の言うように、単に臆病になって逃げていただけなのかもしれない。

涙でボロボロの顔で、ひっくひっくとしゃくり上げながら桜人を見る。

「とにかく、委員を辞めるのは、俺が許さないからな」

桜人は、断ち切るように言うと、私から顔を逸らす。そして、背を向けた。

水色のシャツの背中は、私を振り返ることもなく、上靴の音を響かせながら廊下を進む。

やがて夕焼け色に染まるグラウンドに面した渡り廊下の向こうへと、見えなくなってしまった。
< 81 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop