きみがため
桜人の言ってることは正論だ。

だけど、私はそれをスムーズにこなせるほど器用じゃない。

何でもこなせる桜人とは、何もかもが違うんだ。

彼の言い分に、だんだん腹が立ってくる。

「あいつらと、ちゃんと話せよ。お前の考えを、ちゃんとあいつらにぶつけたことがあるか? 自分を偽って接するから、そういうことになるんだ」

桜人のその言葉に、頭を鈍器で殴られたような衝撃を覚えた。

たしかに私は、いつも自分を隠して美織と杏と接していた。

母子家庭であることがバレたら、中学校のときのように冷たい態度を取られるんじゃないかと怖くなって、一線を引いていた。

美織と杏は私が隠し事をしていることに気づいて、距離を置くようになったんだと思う。

自分を偽ってる人間なんかと、仲良くなれないだろう。

でも――。

やるせない思いが、今にも爆発しそうで、ぐっとこらえる。

目尻には、悔し涙が浮かんでいた。

「……だって、自分を偽るしかなかったの」

絞り出した声は、情けないほどに弱々しく震えていた。

「お父さんが亡くなってから、お母さんは土日も仕事してる。弟は病気で、しょっちゅう入院してて、目が離せない。私は家事と弟の世話をしてばかり。こんな暗い、笑えない家庭の事情、バレたら嫌がられるでしょ? だから隠すのに必死だったの」

こんなことを、心のままに、誰かに話したのは初めてだった。

緊張が解けたように、どっと涙が溢れてきて、頬にある桜人の手を流れていく。

桜人は、泣きながら喚く私を、しばらくの間呆けたように見つめていた。

だけど、やがて力ない声を出す。

「そんなことで、別に嫌がったりはしないだろ」

「……中学のとき、そういうことがあったの。それに桜人だって、今戸惑ってるじゃない」

すると、桜人の瞳にまた怒りが戻った。

何かを言いかけたあとで、彼は口を閉ざす。

それから、私の頬から手を離した。

「……戸惑ってなんかいない」

静かに、桜人が言った。声が、微かに震えている。

それから桜人は息を整えると、落ち着いた声で、ゆっくりと、私を諭すように言った。

「お父さんは、家族のことを想って亡くなった。お母さんは、家族を想って働いてる。弟は、頑張って病気と闘ってる。お前の家族は立派だ、誇りを持てよ」
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