一生ものの恋をあなたと
大塚さんは営業先で俺のことを自分の弟のように扱う。口下手な愚弟だ。
すると、営業先の目には、俺が
『面倒を見てやらないといけない、俺たちの弟』
という風に映る。
俺は、口下手な『皆んなの弟』になるわけだ。
もちろん、営業先で可愛がられる。
そうやって特に頑張って喋る事なく、妙なキャラ立ちした俺は、行く先々で受け入れられるようになった。

しかし、本当にそれでいいのだろうか。
頼りない社員なのでは？

大塚さんは言う。

「営業で一番大事なことは、人の懐に入り込むことだ。
何か情に訴えるものがないと、人は心を開かない。
大事な商談は、まず、そこをクリアしないといけないんだ。
それにな、スピードは大事だ。
じっくり、ゆっくり、なんてしてたら、
商品の売り時を逃すぞ。
いかに早く気に入られるか。
それをよく覚えておくことだ。
これは手段を選ばない、ってほどのことじゃないだろ？
大丈夫。
君は、クリアしていってるよ。」

と。

なるほど…。
情にスピードか…。

俺は今、社会人として生きていく術を、実地で学んでいるのだと、改めて思った。

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