【タテスクコミック原作】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛

「侑李、どうした? そんなとこで座ってないで、早く隼さんにお酌でもしたらどうだ?」

「……」

 ――誰がお酌なんかするもんですか。イーだ!

「いえいえ、お気遣いなく。仕事上がりで疲れていらっしゃるようですし。そっとしておいて差し上げましょう」

「いやぁ、本当に隼さんは、優しい方だ。侑李はいい職場に恵まれたもんだなぁ。いやぁ、本当に良かった良かった。ささ、隼さん、どんどん食べてください」

「ありがとうございます。それでは遠慮なく。
いやぁ、どの料理も美味しいですが、この筍の炊き込みご飯は絶品ですねぇ。いい具合に出汁がきいてて実に美味しいです」

「分かりますか? それは、千葉から取り寄せた”あご”(トビウオ)の出汁を使ってるんです」

「そうですか。実に上品なお味です」

「そうでしょう」

 ハハハッ、てな具合に……。

 見慣れた我が家の居間で、板前である兄が腕に縒《よ》りを掛けて作ったのだろう料理の数々が、ずらっと並んでいる平机を囲って。

 和気藹々と実に楽しそうに、話に花を咲かせている三十路の二人の男の呑気な声と、その傍らで静かに箸を進める男の姿を尻目に。

 心の中で毒づくのもバカバカしくなってきた私は、居間の端っこで、自分のこれからの行く末を嘆いていた。

 こうして私は、とんでもない《《鬼畜》》に、目をつけらた挙句、《《弱味》》どころか、大きな《《借り》》まで作ってしまったのだった。
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