【タテスクコミック原作】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
募る懸念を打ち消す想い

 これまで明かされていなかった隼の性癖のこと、私のことをどんなに想っていてくれていたかを告白されてから一週間後の月曜日の終業後。

 私はいつものように蔵本の運転する国産高級車の後部座席のシートで隼と隣り合って揺られていた。

 勿論、私の手は膝上で、片時も離さないというように、しっかりと隼の手によって優しく包み込まれている。

 六月も後半に差し掛かり、この日は梅雨の気候らしく、朝から小雨が降り注いでいて。

 晴れ間にはクリアに見える車窓からの流れる景色も、ガラスに付着した無数の雨粒が街中に溢れるあらゆる光にキラキラと乱反射して、ぼんやり向けた私の視界を遮っている。

 梅雨が好きという訳じゃないけど、昔から雨は嫌いじゃない。

 小さい頃。こんなふうに雨が降ると、当時お気に入りだった真っ赤な長靴に真っ赤なレインコートを纏い、探検と称して家の経営する老舗料亭『橘』までの道のりをよく一人で歩いたものだ。

 大人の足でおおよそ十分ほどの短い距離だったけれど、子供の私にとっては探検に相応しい距離だった。

 通い慣れた街並みの風景に雨というオプションが付いただけで、気分はすっかり探検隊気取りだったのだから、可愛いもんだ。

 ……なんて、こんな風に自分が子供の頃の思い出に耽るのには理由があった。

 先週、隼と身も心も深いところで繋がり合えたあの夜。

 私と隼はなんの隔たりもなく濃厚に愛し合い、あのまま隼との子供を授かってもいいとさえ思っていたけれど、結局翌日に生理がきて、それが叶わなかったからだ。

 こんなにもガッカリして、物思いに耽ってしまうことになるなんて、自分でも驚きだった。
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