【タテスクコミック原作】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
初めてのご挨拶

 数日経った週末の土曜日。
 
  隼の祖母である雅さんに戴いた、四季折々の花々があしらわれた色鮮やかな薄紫色の着物に身を包んでいる私は、神宮寺家の本宅へと訪れている。

 目的は、着物のお礼と、隼と正式に婚約するためのご挨拶のためだ。

 隼が言っていたように、祖父母の虎太郎さんと雅さんと母親である麗子さんとご挨拶を済ませるなり、『結婚の日取りをいつにするのか』から始まって、やれ式場はどこが良いとか、招待客はどうかなどなど。

 ……というように、話は先へ先へと進んでいって。

 豪華絢爛な大広間に案内されて、務めている会社のお偉方を前に、緊張感に襲われていたはずの私は、そんなのどこかに吹き飛んでしまうくらい、呆気にとられてしまっていた。

 上品な光沢を放っている漆塗りと思しき立派な座卓の前で、隼と隣り合って正座して、それぞれの話に黙って耳を傾けることしかできずに居る私は、痺れを切らしている足の感覚など感じないほどだ。

 このままではあれよあれよと話が進んで、一年もしないうちに結婚の運びとなるんじゃないかと思っていたとき。

「僕の婚約を喜んでくれるのは嬉しいんですが、結婚の時期については、侑李さんと一緒にゆっくり決めたいので、どうかそっとしておいてください」

 座卓の正面で横並びになっているお三方に、有無を言わさないという雰囲気を纏った隼のしっかりとした口調で放った声が聞こえてきて。

 同時に、膝の上でぎゅっと拳を握っていたままだった私の手を口調同様にしっかりと包み込んでくれた隼。

 隼の優しさが手から伝わってくるようで、ホッと安堵した私はふうと小さく息を吐いていた。

 それからほどなくして、隼の兄夫婦である要さんとその妻である美菜さんも加わって、現在、和やかなムードの中で豪華な食事をごちそうになっている。
 
 ……といっても、緊張感に加えて、慣れない着物なんか着ているせいで、味なんてゆっくり味わっているような余裕なんてないのだけれど。
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