【完】スキャンダル・ヒロイン
「そんなに器用って訳じゃないけどボタン位はつけれるよ」
「そっか。これ任せてもいい?衣装で着るんだけどボタン取れちゃって」
「大丈夫ですよ。ご飯作り終えたらやっておきますね」
「ありがとう。助かる。全然服持ってないから困っててさ」
豊さんは長い黒髪から僅かに見える瞳を揺らして、微笑んだ。やっぱり顔立ち綺麗だよな。
しかもあんまり笑わない男が不意に見せる笑顔って結構良い。
って、私は一体何を考えているんだ。ここにはお仕事で来ている。そういう邪な考えは止めましょう。
豊さんの手からシャツを受け取ると、ソファーに戻ったはずの姫岡さんが何故か私と豊さんの間にいる。
そして手に持っていたシャツをジーっと見つめている。…何よ。
「うーゴホン!
そういえば…俺のシャツもこの間ボタンが取れたっけ」
「へぇ。持ってきてくれたらついでにつけておきますけど……」
大慌てで食堂から消えたかと思えば、姫岡さんはドタドタと足音を立てて再び食堂へ戻って来た。
その手の中には超高そうな水色のシャツが握られていた。そのシャツの前ボタンはまるで引きちぎられたように全部取れていた。
「はぁ?!何で全部取れてんの?!何をしたらこうなるって訳?!
服のサイズ合ってないんじゃないの?」
「うるせぇな、いいからそれもつけておけよ?」
何故か偉そうな口ぶりで命令をする。口元は僅かに綻んでいて、何やら嬉しそうだ。