完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
 翌日、午前中は打ち合わせが続き、オフィスに戻れたのが15時を過ぎてしまった。

 さすがに疲れを感じ、溜息を付きながらコーヒーを片手にノートパソコンを開いていると、興奮気味の未来がやってきた。

「桜衣さん!とんでもないイケメンでしたよー」

「え、何のこと?」

「今日から海営に来た部長さんですよ。午前中挨拶に来られたけど、桜衣さんいなかったから。
若いし、背も高くて顔小っちゃくて顔も恐ろしく整ってました。しかも!独身だそうです」

「そうなんだ」

「もう、桜衣さんたらもうちょっと興味もちましょうよ!女性社員はみんな色めき立ってますよ」
 桜衣の気の無い返事に未来は膨れる。こういう顔も可愛いなあぁと桜衣は思う。
 自分は女の子らしい素直な可愛さは持ち合わせていないせいか、こういう子には好感を覚え可愛がりたくなってしまう。

「興味はあるわよ。仕事の面ではね。でも、イケメンと言えばウチの副社長だって恐ろしく顔整ってるじゃない」
 
 INOSEの副社長である猪瀬和輝(いのせかずき)はたしか32歳で現社長の息子。
 正真正銘の御曹司であり、経営手腕もある。たまに実物を見かけるが背も高くスタイルも良い。顔も端正だ。雑誌に取り上げられる事もあったような。
 このフロアにも顔を出す姿を見かけるし、よく後輩の女子たちがきゃあきゃあ言っているのを聞いたことがある。

「直接お話しさせてもらった事はないけど、かなりのイケメンよね。ちょっと威圧感あるけど」

「……桜衣さんは副社長みたいなタイプが好みなんですか?」

「うーん、好みも何も、そういうふうに考えた事もないなぁ」

とにかく興味が無いのだ。

「で、海営の新人部長さんは副社長を超えるイケメンな訳?」

「……ちょうど向こうにいらっしゃいますよ」
 
 未来が教えてくれた方向を見ると、確かにスーツ姿の高身長の男性が立っていて、佐野と談笑しているようだ。
 彼らは広いフロア内の端の方に居て、桜衣の居るデスクからはかなり遠目にしか見えないため顔はハッキリとは見えないのだが、確かに若そうだ。
 30代にいくかいかないか。いきなり部長職だからどんなに若くても40代前半かと思っていたが違うようだ。
 背は180㎝近くありそうで、姿勢が良く足が長い。黒かダークネービーか、濃いめの色味のスーツをお手本のように着こなしている。この距離からだというのにイケメンオーラがすごい。

 桜衣が見ていると、ふと彼も視線をこちらに向け、目が合った……気がした。
 
 (じっと見過ぎて失礼だったかな)

 まあ、遠すぎてこちらが見ていた事はわからないだろうと、さりげなく視線を外す。

 しかし、気のせいだろうか、向こうからはずっと視線が外されないような気がした。
 
 桜衣はなんとなく居心地が悪くなり、未来に「集中ブースで仕事するね」と言い残し席を立った。

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