完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件

 集中ブースでまさに集中した甲斐があり、定時を少し過ぎたくらいで会社を出る事が出来た。

(夕食はどうしよう。こんなに早く帰れるなら未来ちゃん誘えばよかったかな)

 センスの良い内装の飲食店で食事をするのは桜衣にとっては勉強になるし、美味しいものも
食べれるしと、一石二鳥だ。出費がかさむのでそれほど頻繁に行くわけにもいかないのだが。

 考えを巡らせながらオフィス用のゲートを抜け、ビルのエントランスから外に出る。

 ビル風を心地良く感じながら駅に向かって歩き出すと、後ろから声を掛けられた。

「桜衣ちゃん」

「――松浦さん」

 振り返ると松浦が立っていた。昨日連絡を待っていると言われていたことを思い出した。

(――マズい、すっかり忘れてた)

 覚えていても連絡する気は無かったのだが。

「何で、連絡くれないの?待ってたのに、冷たいなぁ」

 彼は笑みを浮かべている。『胡散臭いイケメンスマイル』だ。

 わぁ、苦手だなーと思いながら、桜衣も張り付けたような笑顔を返す。

「松浦さん、どうされたんですか?こちらに用事でも」

「近くの会社で仕事してたから、今から君のところへ行って誘おうと思ってたんだ。丁度良かったよ。さ、今日こそは一緒に飲みに行こう。もちろん僕が何でも奢ってあげる。おススメのお店があるんだ。女の子が好きそうな」

 こうやって誘えば女性はみんなついて行くと思っているんだろう。
 でも、絶対行きたくないし、内心腹立たしいが、思ったより先方が強引な事に焦る。
(どうしよう)
 このまま一緒に行っても行かなくても、どちらにしても面倒な事になる気がする。
 躊躇していると「さぁ行こう」と腕をグッと掴まれ、体が拒否感で固まる。
 しかしそのまま強く腕を引かれたため前のめりに体が動きそうになる。

 その瞬間だった。

「桜衣!」

 背後から長い腕が回り込んできたと思うと同時に、肩ごと後ろに引き寄せられる。

「……えっ?」

 桜衣の後頭部が後ろに立つ人物の胸のあたりに静かに触れた。

 片腕で引き寄せられた状態で思わず顎を上げる。

「――!」

 至近距離にとんでもなく整った男の顔がある。
 
「桜衣、会えて良かった。俺もちょうど向かうところだった」
 
 男は何故か蕩けるような優しい笑顔で言う。

「へっ?」

 素っ頓狂な声が出てしまった。
(だ、だれ?)
突然の展開に驚いていたため、桜衣は頭上で彼が絞り出すように呟いた声に気付かなかった。

「……やっとだ」

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