かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「私たち、入れ替わろう!」


4月も半ばに差しかかり、桜の木もほとんどが緑色に変わりかけた頃のこと。

まさにそれは、青天の霹靂だった。


「お見合い?!」


珍しく家族全員が揃った夕食のあと、絶妙に重なったふたり分の声がリビングに響く。
私、立花(たちばな)ことはと同じく唖然とした声を上げたのは、ソファーの左隣に座る双子の妹・くれはだ。

見事にハモった私たちの反応を受け、ローテーブルを挟んだ向かいのソファーにどっしりと腰かけた父が、いかめしい表情を崩さないまま口を開く。


「ああ。ことはとくれは、それぞれに相手を用意した。日程は今週末の日曜日で──」
「ちょっ、ちょっと待って、いろいろツッコミが追いつかないんですけど!」


くれはが慌てて父のセリフを遮る。
彼女は混乱をなんとか落ち着かせようとしているのか、両手で頭を抱えながら言葉を続けた。


「まず、いきなりお見合いって何なの……?! 私たちまだ28だし、別にそんな急いで結婚することないじゃない!」
「あと半年ちょっとで、“もう”29歳だ。ことはは安定した仕事で真面目にやってはいるがいつまで経っても男の気配がないし……くれは、おまえに至っては最初に勤めた会社を辞めてからはフリーターでコロコロ職を変えてるじゃないか。それならいっそ家庭に入って、夫に尽くすいい妻として生きるのが世の中のためだろう」
「はああ?! 意味わかんない!! どうしてお父さんにそんなこと勝手に決められなきゃならないの?! ていうかコロコロなんて言うけど今の会社は勤めてからもう1年半経つし!! 辞めるつもりもないし!!」
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