かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
《智遥、いつまでフラフラと独り身でいるつもりだ? 相手なら、条件のいい娘をこっちでいくらでも用意して──》


……嫌なことを思い出した。
自分の思考に思わず舌打ちしそうになる。が、今ここでそれをするわけにはいかない。

すると、まさか顔に出ていたわけではないだろうが傍らの人物がじっとこちらを見つめてきて少し焦る。

どことなく値踏みするような──あまり、気持ちのいいものではない視線だ。

訝しく思う本音を今度こそ覆い隠すように、微笑を浮かべて小首をかしげてみせる。


「立花専務? 私の顔に何かついていますか?」
「ああ、失礼。いや……まあ、そうだね。男前だとは思っていたが」


返されたセリフが予想外で、一瞬反応が遅れた。

すると立花専務は、少し躊躇うような素振りのあとまた口を開く。


「奥宮社長は、指輪はつけていないようだが……結婚はしていないんだったかな? ああでも、きみくらいの男前なら恋人のひとりやふたりいるのか」
「え?」


さっきまでより少し砕けた口調でまたまた思いがけない言葉をかけられ、ポカンと目を丸くする。

……一体なんなんだ。今朝の電話といい、今この状況といい……今日は厄日か?


「……恋人がふたりいるのは、マズいのでは? 残念ながら結婚もしていませんし、そもそもそういった相手はしばらくいないですね」


引きつりそうになる顔をなんとか微笑みの形に留めながら、それでも探るような目を向けてしまうのは止められなかった。

俺の警戒心に気づいたのか、立花専務が少し焦った様子で答える。
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