かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「ことは、いるー?」


コンコン、とノックの音が2回したと思ったら、ドアの向こうからくれはの間延びした声が聞こえてきた。

ハッとして、上半身を起こしながら返事をする。ドアを開けて姿を見せた彼女は、片手に一輪の花が活けてあるガラスの花瓶を持っていた。


「これ、またお店でもらってきたんだ。よかったら飾って」
「わ、ありがとう」


差し出された花瓶を、お礼を言いながら素直に受け取る。
くれはは開花のピークが過ぎたり茎が折れてしまった売り物にならない花をしょっちゅう職場からもらってきては、こうして私にも分けてくれるのだ。

今もらった花は、黄緑色の小さな花が集まって鞠のようになっているものだった。あじさいに似ているようで、それよりもうひと回り小ぶりなサイズ感だ。
知らない品種だったけれど、ふんわりしたシルエットがかわいい。思わず笑顔になって一通り眺めてから、顔を上げた。


「かわいいね。なんて名前の花?」
「ビバーナムスノーボールっていうの。これ一種類だけでも存在感あるし、葉っぱと花の色が今の季節にぴったりでしょ?」
「へぇ」


返ってきた言葉にうなずきながら、ベッドを下りて花瓶を丸テーブルに置く。

うん、やっぱりかわいい。花が一輪あるだけで、私のシンプルな味気ない部屋もパッと華やぐようだ。
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